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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第31話


 ミザリと別れて黒モグラのもとへ向かった。


 遅いぞという愚痴にはごめんを返して、私はクエストの進行に臨む。


 黒モグラたちは坑道を掘っている最中だった。スコップを使って地道に掘っているものの、道具が駄目になって悩んでいるらしい。


 そりゃそうでしょ。


 なんて思っていると、穴掘り道具を作るための素材集めを要求された。


 私はリストを受け取って水の都を出た。


 向かう先はラティカのかただ。広大な湿地帯になっているこの場所では水生生物が多く確認される。


 人の手が入っている都と違って水は濁っている。


 かといって水が汚いわけでもないようだ。


 潮の干満かんまんによって潟の水が浄化されている。生息している動物も活き活きとして水の中を泳いでいる。


 遠ざかる魚の背中を観賞しつつ歩みを進める。


 湿地帯は鉱石採取に向かないとされる。


 軟らかい堆積物が積み重なるせいで岩盤に到達するのが難しく、水分を含むから採掘作業に大きなコストが掛かる。


 何より貴重な金属鉱石は火成岩や変成岩の中に形成される。そういう意味でも湿地帯と発掘の相性は悪い。


 でもこの世界にはエネミーがいる。鉱石採取も現実とは少し事情が異なる。


 洞窟に踏み入って視界を暗がりにひたす。


 薄暗いのに内部の輪郭ははっきりと見える。

 

 つららのごとく垂れる鍾乳洞。湿度が高いのにこけは最小限で見映えする。鉱石が溶け込んでいるのか、水は透き通るような青色を帯びている。


 非現実的な光景を前に気分が上がった。洞窟内の景観を背景にして、フォト機能で人生初の自撮りをした。


 うれし恥ずかしの時間を経て洞窟内の探索を再開する。


 目的の採取ポイントにたどり着いた。ピッケルを実体化させて鉱石の割れ目に振り下ろす。


 地面の上を転がったのは青色の鉱石。見るのは初めてだけど目的のアイテムじゃない。


 次は緑色の鉱石。レアドロップの音がなったもののやっぱり違う。


 転がるのはどれも初めて見る石ばかり。


 胸が高鳴る一方でもやもやする。目的のアイテムってこんなに出にくい物なの? 


 ピッケルだって消耗品だ。使い切ったら街に戻って捕給しないと鉱石を掘れない。またここまで足を運ぶのは面倒だ。


 出て、お願い。


 最後の一本に祈りを込めて振り上げる。


 カンッと軽快な音に遅れて、透明感のある鉱石がコロンと転がる。


 ポップアップが視覚を通して鉱石の名前を知らせてくれた。


「やった!」


 弾けんばかりの歓喜が胸の奥からわき上がる。


 ズシンと重々しい音が鳴り響いた。


「誰だぁ、おいらのなわばりでカンカンうるさくしてるやつは」

 

 規則的な音が近づいてくる。


 奥から二足歩行の丸っこい影が現れた。大きくて強そうだけど、足音のわりに威圧感はあまりない。


「またモグラか」


 最近縁があるなぁ。


 しみじみ思っていると大きなモグラが足を止めた。


「おうおう人間、一体誰の許可を得てここで発掘なんかしてんだい」

「許可も何も、ここは誰のなわばりでもないでしょう」

「分かってねえなぁ。この地ではつええやつが欲しい場所を手にするんだよ。それがルールなんだ」

「そのルール誰が決めたの?」

「さあ知らねえなぁ。だが郷に入っては郷に従えって言葉があんだろ? 人間にはよぉ」

「そうだね。つまりあなたを倒せばここは私の物ってわけか」

 

 挑発的に口角を上げてみせる。


 それが開戦の合図になった。大きなモグラが屈んで足に力をたくわえる。


 私は右方に走った。轟音を背中で受け止めながらダガーを抜き放つ。


 思えばボスエネミーに『疾風の黒旋刃』を向けるのはこれが初めてだ。デビュー戦は華々しく飾って上げなきゃ。


 まずは背中から。弧を描くように走って背後へと回り込む。


 ボスエネミーは強力だ。真正面から戦っても勝ち目は薄い。

 

 ウィンドメイジやオブシディアンレックスの時は仲間がいた。仲間が注意を引いている隙に背中を斬りつけることができた。


 今は一人。攻撃チャンスは自分で見つけ出さなきゃいけない。


 大きな図体は方向を変えるにも時間が掛かる。背中か側面から斬りつけるのが安全だ。


 左腕を振った。次いで右の刃を入れてモグラの背中に赤い横線をえがく。


 風の刃を発した後に斬りつける手法。オブシダ洞窟での試し斬りで編み出した手法だ。


 両方の刃を同時に叩きつける手もあるものの、それをすると私の足が一瞬止まる。


 私のメイン火力は慣性スキルを活かした攻撃だ。一時的に大きなダメージを出すよりは、疾走の勢いを殺さないように立ち回る方がトータルダメージは大きくなる。


 適度にクナイを射出しながら攻撃と退避を繰り返す。


「この、ちょこまかと!」


 モグラが大きな岩を持ち上げた。のそのそと体の向きを変えて狙いを定める。


 かなり無理してそうだ。ちょっと刺激したら岩を落としてくれるかもしれない。


 私は方向転換して両腕を振り上げた。


 ダガーから発された風刃がモグラの指で赤い光を散らした。大岩が指からすっぽ抜けて重力に引かれる。


 その先にはモグラの足があった。


「痛ってええええエエエエエエエエエッ⁉」


 モグラが足を押さえてぴょんぴょん跳ねる。岩につまずいてそのままひっくり返った。


 これが特殊ダウンってやつか。


 なら遠慮なくたたみかけさせてもらおう。


「はあああアアアアアッ!」


 走り寄ってでっぷりしたお腹を斬りつける。赤いエフェクトが散って宙を飾りつける。


「待ってくれ!」


 洞窟内に声が響き渡る。

 

 手を止めて振り向くと黒いモグラの群れがいた。


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― 新着の感想 ―
完全にモグラ√を邁進してる感ww 走るのが好き。ってゆう個性と、SPD特化の構成が噛み合って、なかなかに魅力的なキャラクターに仕上がってますね。 他のプレイヤーとの関係も良い感じな一方。友人とも遊ん…
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