第26話
試し斬りの場にはオブシダ洞窟を選んだ。貴重な鉱石を発掘しつつ、一度戦ったことのあるエネミー相手に新武器を振るう。
立ち止まって振った際には風の刃が出ない。走って速度を乗せないとアビリティは発動しないようだ。
疾走速度と風刃の相関性も確かめた。速く走るほど風刃の威力は高まる仕様のようだ。
この日はそれだけ確かめてログアウトした。
入浴をすませてタブレット型コンピューターとスマートフォンを用意する。揚羽と通話をつなぎつつゲームの公式配信を眺める。
語られたのはアップデートについてのあれこれ。近日中に新しいフィールドマップが解放されるらしい。
現時点でも|Ideal self onlineの全てを遊びきれていないのにすごいボリュームだ。
そして何より意識を引かれたのは――。
「ハウジングスペースかぁ、自分の家を持てるって何だか不思議な感じ。そういうのって人気あるの?」
「あるよー。世界一売れたゲームがクラフト系なくらいだからね。昔から根強い人気があるの」
「それはすごいね」
世界一か。陸上一筋だった私でも知ってるゲームの話は学校でもよく耳にするけど、あれらはクラフト系じゃない。世の中知らないことばかりだ。
「ヒナタはハウジングスペースが実装されたら何を作る?」
「私? んー何だろう」
「ヒナタは陸上の走路作りそう。家を囲むようにぐるーって」
「それいいね。採用」
頭の中で思い描く。
電子世界の家を囲むトラック。ログインしたら走り放題だ。
公式の発表によると、ハウジングスペースには採集ポイントも配置できるという。これでプレイヤーキルをもくろむ危ない人たちを相手にしなくてすむ。
「冗談で言ったんだけどなぁ」
スマートフォンの向こう側から苦笑いがもれる。
「変かな?」
「まあ大多数のプレイヤーはやらないかも。でも個性があって私はいいと思うよ」
「適当にフォローしてない?」
「してないって。全員が同じハウジングスペース作ってもつまらないでしょ? それにトラックって楽しそうじゃん。色々障害物設置したりしてさ。仲のいいフレンド呼んで遊んだりして」
想像してみる。
自分の作ったハウジングスペースでお友だちと一緒に遊ぶ。
想像して胸の奥がぽかぽかとした。
「がぜんやる気が出てきたよ。参考になりそうなサイトとかある?」
「あるよ。あとでおすすめサイトのURL教えてあげる。私、ヒナタの何にでも熱中するところ好き」
「ありがとう。私もそういう自分が大好き」
「ナルシスト」
スマートフォン越しに二人で笑う。
「じゃ私もう寝るね」
「うん。おやすみ揚羽」
通話を切る。
数分とせずアプリに通知が入った。クラフト系のあれこれが記されたサイトのURLだ。
私は電子的な文字を連ねてお礼を返信した。URLから飛んで揚羽のおすすめサイトに目を通す。
一通り情報を仕入れて私もベッドの上に横たわる。
頭の中がハウジングスペースのことでいっぱいで、この日は寝つくのに時間が掛かった。




