第22話
「行くでござるよでっかい恐竜! 先手必勝おおおおおおっ!」
サムライ少女が駆け出した。刀を鞘から抜き放ってさっそうと駆ける。
近づくだけでも臆病風に吹かれそうな巨体だけど、彼女は笑ってすらいる。一緒に立ち向かう私としては実に頼もしい。
私も負けていられない。
エネミーを中心に弧をえがくようにして走る。人差し指を引いて鉱石を射出する。
黒曜石じみた表面には傷一つつかない。走りながらの射撃だから狙いもあいまいだ。
でも何度か攻撃するとヘイトを引けた。ギョロッとした瞳が私をとらえる。
おたけびとともに巨体がせまる。
冷静に観察すればかわすのは簡単だ。サムライさんとはさむように立ち回りつつ、頭に幻惑クナイを当て続ける。
ダメージ自体はサムライさんの方が出しているようだ。結晶のオオカミも倒せていたし、ダメージ耐性を下げるスキルがあるのかもしれない。
ヘイトがサムライさんに向いて、数度の射撃を経てまた私が狙われる。
オブシディアンレックスがのけぞった。何もない空間を見すえて威嚇する。
その光景にピンときた。
「サムライさん、エネミーに幻惑入ったよ」
「つまり好機ってことデスね。ならばっ!」
サムライさんがエネミーの横について刀をかかげる。
刀の先端で円がえがかれた。銀色の刃が紅い光を帯びる。
「秘剣・紅一文字!」
サムライさんの体が左側頭部から右側頭部に瞬間移動した。大樹の幹じみた首に赤い軌跡が刻まれて、エネミーが初めてダメージでのけぞる。
サムライさんが刀を鞘に納める。
「ふっ、またつまらぬ物を斬ってしまった」
ニッとした笑みが微笑ましさをかもし出す。
あれ、片言じゃない。何度も練習したのかな。
振り下ろされた黒い腕が地面を粉砕した。衝撃でサムライさんが吹き飛ばされる。
「ぬわーっ⁉ おのれ背後からとは卑怯な!」
「私たちが言っていいのかなそれ」
ともあれ幻に惑わされている今が好機。次は麻痺クナイをセットしてヘッドショットを試みる。
サムライさんに紅い軌跡を狙うように指示された。
告げられた箇所を狙い撃つと金色のヒットエフェクトが散った。サムライさんいわく、軌跡が残った箇所への攻撃は肉質を無視する上にダメージボーナスが入るらしい。
これで火力不足は解消された。暴れ回るオブシディアンレックスに麻痺を入れて総攻撃をかける。
黒い巨体がポリゴンになって砕け散った。
「やったああああああっ!」
きゃっきゃするサムライさんをよそにリザルトウィンドウが表示される。
『オブシディアンレックスの鱗石』
黒く輝くきれいな石。圧倒的重量に耐えてきたそれはダイヤモンドよりも硬い。
アイテムドロップの画面を閉じてサムライさんに向き直る。
「やったねサムライさん」
「ハイ。状態異常ナイスでしタ。紅一文字の後に麻痺が入ってタイミング完璧でしタね」
意図して狙ったわけじゃない。幻惑を入れて弱点を見つけてから麻痺を入れる予定だった。
まさか弱点を作り出せるスキルがあったとは。
「サムライさん。さっきのスキルってスリングショットでも使えるの?」
「んースリングショットのことは分かりまセンが、少なくとも紅一文字は侍のジョブで取得できマス」
「ジョブ?」
小首をかしげる。
青い瞳がまぶたで見え隠れした。
「あれ、知りませんカ? レベル10になるとジョブ選択できるようになるじゃないデスか」
初耳だ。
街に戻ったら早速ジョブを選ばなきゃ。




