第2話
気がつくとSFチックな部屋にいた。
目の前におしゃれな長方形が浮かび上がった。
電子的な文字で名前を入力するように請われて、私は日向を片仮名にしたヒナタを入力した。
続いてキャラクターメイキング。
髪型、髪の色、肌の色。
その他もろもろ。いくつ考えることがあるんだろう。こだわっていたら一日が終わりそうだ。
揚羽への義理でプレイはするけど、このゲームを長く続ける予定はない。
色々考えるの面倒だし生身を参照した。リアル割れは嫌だから髪は栗色から黒く染める。
いざしゅっぱーつ!
と思ったら新たな画面が開いた。
説明文いわく、プレイヤーはゲームの世界に飛び立つ前にボーナスポイントを割り振れるらしい。
理想的なプレイスタイルを実現するためのアシストなのだとか。
「どうしようかなぁ」
定石としてはバランスよく振るんだろうけど、それじゃあまりにも芸がない。
足元に視線を下ろす。
私は走るためにこのゲームをプレイするんだ。
ポイントを割り振るならスピード関連のステータス一択! 説明文を参考にしてAGIに全てのポイントを注いだ。
視界内が白一色に染め上げられる。
一拍遅れて華やかに色付いた。
オレンジの屋根、木造の建物、周囲を青々しく飾る樹木。
そして前後左右に広がる石だたみ。
中世的な景観。日本在住の私には目新しい光景だ。
「よおーし、やるぞおおおおおっ!」
胸の奥から噴き上がるやる気に身を任せて、私は声を張り上げた。
視界内の人影がいっせいに振り向く。
いい年して子供のようにはしゃいでしまった。
顔の熱さをこらえて街の外を目指す。
街中は障害物が多い。走るには不向きだ。
門をくぐって土の地面を踏みしめる。
走るべく地面を蹴ろうとして、しかし靴裏が貼り付いたように離れない。
怖い。
脚を故障した時の焼けつくような痛み。あれがまた襲ってくると思うと走り出せない。
視界の隅に移るアイコンを人差し指でなぞった。
視界内に現出したコンソールをいじってログアウトの欄を出す。
よし、痛くなったらすぐにこれを押そう。
すーっと深く空気を吸い込む。
三、二、一。
ゼロ!
地面を蹴った。
痛みは……ない。
脚が動く。何回地面を蹴飛ばしてもピリッとすらしない。
「あははっ!」
自然と口角が浮き上がる。笑い声がこぼれて止まらない。
体が軽い。風と化したみたいだ。
生身で走る感覚とは大分違うけど、それでも風を突っ切って走るこの感じには覚えがある。
私、また走ってる。
その感動を胸にひたすら手足を振る。