第17話
光柱の根元では交戦が始まっていた。
魔法や矢が飛び交って宙を飾る。
それらが向かう先には銀色のオーラをまとうプレイヤー。トゲトゲしたヘルムをかぶる人型が両手に握る剣を振るう。
矢が両断される。
魔法が消える。
何一つ攻撃が届かない。挑戦者たちの攻撃が双剣によって切り伏せられる。
「あいつバケモンかよ」
「こんなのどうやって戦えばいいんだ!」
「どうやっても何も、近づいてぶんなぐるしかねえだろ!」
かといって近づくと剣閃が飛んでくる。
オーラと同じ色の攻撃。おそらくはトップスリーのバフによるものだ。
その射程は五メートルほど。長いってほどじゃないものの、近接職にとっては十分な牽制になる。
距離を詰めるには仲間と連携するしかない。
でも初対面に等しい人とうまく連携を取るのは無理だ。最終目的はあくまで自分がランクインすること。協力は数が多いほど難しくなる。
対してトップスリーは文字通り三人。目的も生き残ることに統一されている。
意思の疎通はたやすい。仲間を援護することにためらいがない。
状況は最悪だ。
「おいおい、どうすんだよこれ!」
「決まってる」
何か策が?
そう思って振り向いた先で、男性プレイヤーの胴体から剣が生えた。
「なに、を」
男性が人型のポリゴンとなって弾ける。
誰もが呆然とする中でスキルが行使された。槍が光を帯びて辺り一帯を薙ぎ払う。
五つの人影が消失して、槍を握る男性の体が銅色のオーラに包まれた。
「アハハハハハッ! これでオレが三位だぁ!」
「野郎ッ、裏切りやがったな!」
「さいってい!」
罵声なんて何のその。キレ長の目をしたプレイヤーが金と銀の二人に視線を送る。
「協力しようワンツー、協力だ。そこの脱落者は切り捨てて俺と組もう」
「お前何を勝手な――ぐふっ⁉」
銀色の剣に両断されて元三位が消失する。
それが返事となって、戦局が新たな局面を迎えた。
もう誰も信じられない。次の瞬間には自分が襲われるかもしれない。そんな空気が蔓延してこうちゃく状態が生まれる。
立ちつくす間も時間は過ぎて、ついに残り時間が三十秒を切った。
左胸の奧がバクバクと鼓動を打つ。
あと三十秒で終わっちゃう。そんな焦りをひたすら胸の奥に押し込める。
大丈夫、大丈夫。
落ち着かない鼓動は体がまだあきらめていない証拠。心臓がひたすら血を送って、思考と体のコンディションを整えてくれている。
左腕に取りつけた籠手に視線を落とす。
スリングショットにセットしてあるのは麻痺クナイ。
太ももに巻きつけたバンドには、麻痺と幻惑のクナイがそれぞれ一本ずつ。ちらちらと視線を感じるし、向こうも残り三本と信じ込んでいるに違いない。
必ずチャンスは来る。
陸上の大会にも似た緊張感。今まで積み重ねてきたことを信じてひたすらに時を待つ。
アナウンスが残り十秒を告げた。
同時に金色の人影が背中を向けた。剣を鞘に納めて走り出す。
二位と三位がバッと振り向いた。
「逃げた……逃げた⁉ 一位が逃げた!」
今までに見せた王者の振る舞いはどこへやら。金のオーラをまとうプレイヤーがひたすら手足を振って遠ざかる。
二位と三位に襲われる可能性を考えての判断だろう。その気持ちはよく分かる。
好機到来。このチャンスをずっと待ってた!
すぐにバシュ・ネ・モフィラの照準を銀色の人型に合わせた。人差し指を引いて弾を発射する。
よそ見をしている二位に麻痺クナイが命中した。トゲトゲヘルムの上に雷アイコンが表示される。
「今です!」
私は声を張り上げながら弾受けにクナイをセットする。
今までは周りにキルされることを恐れて誰もが動けなかった。
今は状況が違う。残り八秒もしない内にイベントが終わる。
怖いなんて言っていられないこの状況。誰もがチャンスと踏んで二位との距離を詰める。
一秒としない内に麻痺アイコンが消失した。バフもあって異様に効果時間が短い。
周りが二位へと殺到するのをよそに、三位のプレイヤーも背を向けて走り出した。
「あばよシルバー!」
「お、おい!」
制止の声は届かない。銀色オーラの人が双剣を構えて剣戟に備える。
私は照準を向ける。
二位が卓越したプレイングを有することは、今までのやり取りで嫌というほど思い知った。
麻痺を受けて接近を許したとはいえ、現三位の裏切りで人数は減っている。キルまで持ち込むのは困難を極める。
だから銀色の人は狙わない。
私が狙うのは遠ざかる後頭部。MPを消費して【パワーショット】を放った。
銅色のオーラに突っ込んだ麻痺クナイが後頭部で赤い光を散らす。
雷アイコンは確認しない。すぐに幻惑クナイを弾受けに収めて射出する。
「お、親父ぃ⁉ どうしてここに!」
幻惑に掛かった事実を聴覚で確認しつつ、籠手に隠しておいた一本をセットする。
これで最後だ。
「いっけええええええええええっ!」
トリガーを引き絞った。三発目のパワーショットが裏切り者をポリゴンに変える。
断末魔をBGMにして私の体が銅色のオーラを発する。
一拍遅れてピーッと甲高い音が響き渡った。
「そこまで! イベントはこれにて終了です。全員を広場に送り次第結果発表を行います!」
視界内が白一色に染め上げられる。
気がつくと噴水の上にいた。街を彩る建物を遠くまで見渡せる
足元に視線を落とすと表彰台があった。
右方を見ると金銀のプレイヤーが立っている。二位が視線を振ると、一位の人がそっぽを向いて口笛を吹いた。
「みなさん、見ごたえのあるバトルをありがとうございました! では結果発表に移ります!」
雲がふわふわと寄ってきた。
「まず三位、ヒナタさん! 何か感想をどうぞ!」
もくもくした手がマイクを向ける。
既視感。陸上大会で優勝した際のインタビューを思い出して、寂しさが胸の奥をチクリと刺す。
もうあの舞台には戻れない。
でも今の私にはこの世界がある。仮面の下で口角を上げて、入賞を嬉しく思うことを伝える。
次いでミザリ、バーバラさん、シメアさんのお店で装備をつくろったことを告げた。