第16話
引き続き駆け回ってコインを集める。
アナウンスがフィールド内に響き渡る。
キルされたプレイヤーの脱落によって、フィールド内のプレイヤー数が一定数を下回ったこと。
イベントの残り時間が十分を切ったこと。これを理由にイベントが新たなフェイズに移行した。
視界の右隅にプレイヤーの名前が連ねられた。
一位から三位までのプレイヤー名がそれぞれ金、銀、銅の王冠に飾られる。
青空を背景に金、銀、銅の柱が立ちのぼる。
フィールドに散らばるコインはあらかた取り尽くされた。ここから上位を目指すならプレイヤー同士の戦いは避けられない。
ランキング上位者の居場所は天を衝く光でバレバレだ。倒せば多くのコイン獲得が狙える。
その代わり王冠所持者には特別なバフがかかる。一人で挑むのは無謀だ。
他のプレイヤーと協力して挑む。そのために私も人が多い場所を目指す。
進んだ先で何人かのプレイヤーが振り向く。
「お、忍者だ」
「くノ一だ」
「てかあの仮面、例のメタルこんこんじゃね?」
気づかれた!
どうしよう。恨みを持ってる人がいたらこの人たちから狙われかねない。
「ふぁ、ファンです!」
「ファン?」
「そうです! メタルこんこんの!」
「本当か? その武器スリングショットだろ? メタルこんこんもスリングショット使いって聞いたぞ」
「でもメタルこんこんがくノ一って聞いたことねえな。こんな格好してたら情報が上がらない方がおかしい」
「確かに。じゃあ本当にファンなのか」
納得してくれた。
助かったぁ。武器を向けられたらどうしようかと思った。
話題を変えるべく率先して口を開いた。
「みなさんはこれからあの光に向かうんですか?」
「ああ。連中には強力なバフが掛かるって話だし、数を用意した方がいいと思ってよ。よかったらお嬢ちゃんも参加しないか?」
「はい。ぜひお願いします」
グループの仲間入りを果たして光の柱へ靴先を向ける。
一定の距離まで近づいたところで足を止めた。
「やつら集まってんなぁ」
三色の光はそれほど遠くない位置にある。
ランキングが変動しなければ彼らがスリートップだ。他のプレイヤーから狙われるのは必然で、それは向こうも分かっている。まとまった方が順位を維持しやすいのは道理だ。
「せこいなぁあいつら。このままの順位でゴールインする気だぜ」
「袋だたきにしようとしてる俺たちも人のこと言えないけどな」
「仕方ねえだろ向こうはバフ掛かってんだから」
「でもどうする? さすがにトップスリーをまとめて相手するのは分が悪いぞ」
「他のグループと合流するのはどうですか? 問題はそのグループに四位がいた場合ですが」
私は視界の隅に横目を向ける。
三位と四位の獲得コイン数はそれほど離れてない。他のプレイヤーをキルした瞬間に三位と化す可能性もある。
そうなったらお互いに敵同士。裏切るなら絶対私たちの隙を突いてくる。人数を減らされたらランカーに一掃されて終わりだ。
私の現順位は十位。これなら周りに敵視されることはない、と思いたい。
「あれこれ考えたって仕方ねえ。他のグループを探そう」
「いいのか? そのグループが襲ってくるかもしれないぞ?」
「迷ってたって時間がすぎるだけだ。それに俺たちだけで突撃しても漁夫の利を狙われる。だったら形だけでも同盟を組んだ方がいいだろ」
「そうですね。私もその意見に賛成です」
私たちは仲間じゃない。あくまで同じ目的を持つだけの集団だ。仲間意識なんて持ったら確実に後悔する。
それはトップスリーにも同じことが言える。
何せ一位のプレイヤーをキルすれば一位になるんだ。終了時間が近づいたら二位と三位のプレイヤーも一位の人を狙うはず。きっとそこが私たちの攻め入る隙になる。
光の柱が立ちのぼる方向で爆音が鳴り響いた。
「何だ今の」
「もしかして他のプレイヤーが仕掛けたんじゃないか?」
「こうしちゃいられねえ、俺たちも行くぞ」
他のプレイヤーが我先にと駆け出す。
私も地面を蹴って彼らの背中に続いた。