第14話
ミザリと「またねー」を交わして魔女のアトリエじみた建物を後にした。
石だたみの道を突き進んで、今度は高級な品格漂う店舗に足を運ぶ。
シメアさんにあいさつして早速防具作成に取りかかった。風切りの布や鉱石、プレイヤーキラーから得たアイテムとゲーム内通貨をシメアさんに委ねる。
防御力を高めるための防具だけど、ここまで来たからにはAGIに振り切りたい。狙ったステータスボーナスがつくことを祈るばかりだ。
シメアさんが奥に引っ込んで少し待たされる。
今回は作業過程を見学させてもらえなかった。大きなお店だし、何か企業秘密でもあるのかもしれない。
人差し指で軽く宙を引っかく。
コンソールが展開された検索エンジンを起動して、対人戦の心得をまとめたサイトに目を通す。
動きを読むのが大事。色んなサイトにそんなことが書いてある。
言うは易く行うは難しだ。相手の動きを予測できるなら苦労はしない。
でも何となく分かる。
何十人とプレイヤーキラーを迎撃したおかげだろうか。人の行動には何かしらの意味があると知った。
斧を振り上げたら振り下ろしが来るし、弓使いが足を止めたら矢をつがえて狙ってくる。スリングショットなら弾がなくなれば装填するからそこが攻撃チャンスになる。
それは私にも同じことが言える。
イベント中は持ち込めるアイテムに制限がかけられる。
持ち込める残弾数にも限りがある。私の残弾数はつねに意識される。その辺りをごまかせれば相手の意表をつけそうだ。
靴音が近づく。
ウィンドウの右上にある×ボタンを押して視界内から長方形を消す。
「お待たせしました。これができ上がった商品になります」
眼前でホログラムパネルが浮き上がる。
【シメアから以下の装備を送られました。受け取りますか?】
『黒霞・額当て*』
『黒霞・禍羽*』
『黒霞・闇纏*』
『黒霞・風成*』
「全部黒霞の文字がありますね」
「シリーズ防具だからね。黒霞で統一するとシリーズボーナスで足が速くなるのよ」
「いいですねそれ!」
もっと速く走れるようになる。
浮き上がるような心持ちで『受け取る』のボタンを押した。早速メニューを開いて防具を身にまとう。
身に着けている衣服がほのかな光を帯びる。
一拍置いて体が紺色の衣装に包まれた。
忍び装束という言葉が思い浮かぶ。足が速くなるだけあってすごく軽い。
軽いのはいいけど、ちょっと気になる点もある。
「ちょっとスカート短くありませんか?」
スカートのすそに視線を落とす。
学校の制服でもここまで短くしたことはない。ノースリーブはまだ許容できるとしても、ハイキックしたら下着が見えちゃいそうだ。
「大丈夫。ゲームシステムが自動で鉄壁スカートにしてくれるから」
「鉄壁スカート?」
「下着の類は全部シャットアウトしてくれるってこと。ひざ丈だと走る時邪魔になっちゃうから短い方が都合がいいのよ。それにヒナタさんきれいな脚してるし、隠すのはもったいないって。見せてこ見せてこ」
ほおが微かに熱を帯びる。
揚羽にも脚きれいって言われたことはあるけど、見ず知らずの人に言われると余計に照れくさい。
「どうしても嫌って言うなら無料で作り直すよ。個人的には今のままの方が宣伝になるかなって思うんだけど」
そっちが主目的か。
まあ確かに、くるぶし丈のパンツを履いてるくノ一なんて見たことない。
せっかくの忍び装束。ゲームの中でくらい成り切るのもいいか。
「いえ、このままでいいです。防具を作ってくれてありがとうございました。ちなみにここは装身具を取りあつかってますか?」
「ええ、あるわよ」
「見せてもらっていいですか?」
「もちろん。ついてきて」
お店の奧に足を進ませる。
太ももに巻きつけるためのバンドと籠手を購入して、私はおしゃれなお店を後にした。