第13話
森を出てミザリさんと街中を歩く。
前方に黒い木造の建物が映った。
禍々しい。今にも亡霊か何かが出てきそうだ。
ドス黒い空気を発する建物に気圧されていると、ミザリさんが右の人差し指を伸ばした。
「あれです。あれが私のお店です」
「あれが⁉」
反射的に告げて、とっさに微笑を間に合わせた。
ミザリは誤魔化し笑いにごまかされてくれた。
プレイヤーが自分のお店を構えられる。何て自由で素敵なシステムなんだろうって思う。
でもミザリ。その建物不気味すぎない?
建物の近くに立ってる樹木なんて毒を含んでるみたいに色が悪い。垂れ下がった枝葉から今にも毒液がにじみ出てきそうだ。
もはやショップと言うより魔女のアトリエ。ホラーが苦手な人は中々足を運べないだろうなぁ。
「ささ、入り口はこっちです。入ってくださいヒナタさん」
「う、うん。お邪魔します」
笑顔を心がけて黒いドアを開け放つ。
建物の中は意外と明るかった。窓から差し込む光が、室内を飾りつける植物を温かく照らしている。アクセントとして設けられたステンドグラスが実におしゃれだ。
このテイストをもっと外装に押し出せばいいのに。
「ヒナタさんはスリングショットを使うんですよね?」
「うん。土曜日のイベントに参加するんだけど、何かいい弾ないかな?」
「土曜って言うとバトルロワイヤルのやつですか。ヒナタさんすごい自信ですね」
「自信って?」
「だって熟練者が有利じゃないですか。レベルは一時的にリセットされますけど、装備やスキルはすえ置きって聞きますよ」
一般的に強いエネミーを倒すほど性能のいい装備が手に入る。
レベルを上げるほど強いスキルを覚えられる。
どちらもやり込み要素だ。熟練者ほど条件を満たせる。初心者の私はどうやったって不利だ。
「でも挑戦してみたいんだよね。参加賞も出るって話だし」
「チャレンジ精神ですか。私は誰かと競うの苦手なので、ヒナタさんのそういう姿勢はあこがれます」
「ありがとうミザリ。私もこんな自分が嫌いじゃないんだ」
実際のところ優勝する自信はない。
でも新しいことに挑戦するのは楽しそうだ。
「よおし、だったら私の弾でヒナタさんを勝たせちゃいますよぉっ!」
ミザリが鼻息荒く意気込んで商品棚に歩み寄る。
大粒の弾が木製の棚を飾りつけている。森の中で見た紅色の他にも黄、青、緑と色とりどりだ。
中には形の違う物もあった。
「これクナイだよね?」
白い布が巻かれたグリップにとがった先端。忍者があつかう道具だ。
「ああ、それ形状だけクナイなんです。弾の形にもいくつか種類がありまして、クナイ型にすると刺突属性と状態異常値にボーナスが掛かるんですよ」
「状態異常って言うと毒や麻痺とか?」
「はい。特に麻痺や幻覚はプレイヤーの行動に直接干渉できるのでおすすめですよ! まあプレイヤー相手だと効果時間が短くなっちゃうんですけどね」
「効果時間が長いとみんなそればっかり使うもんね」
とはいえ短時間でも効くなら一撃入れられる。場合によってはそれが勝敗を決めることもあるだろう。
「決めた。麻痺と幻惑のクナイをそれぞれ十個ずつちょうだい」
「いいんですか? クナイ型は作る際にコストが掛かるので少しお高めですよ?」
「大丈夫。たくさん鉱石売ってふところはうるおってるから」
その大半はプレイヤーキラーから取り上げたアイテムの売却額だけど、それはミザリには黙っておこう。
「分かりました。麻痺と幻惑のクナイを十個ずつですね。じゃあお友だち記念で一個ずつおまけしちゃいます!」
「ありがとう。大切に使わせてもらうね」
ゲーム内通貨と商品を交換してアイテムポーチにしまい込む。
ミザリのお店にはこれからもお世話になるだろうし、イベントで入賞できたらミザリの弾も宣伝しようかな。
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