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第12話


 パーティを組んだミザリと歩を進める。途中現れたエネミーは二人で倒した。


 一人で戦うよりもだいぶ楽だった。


 ミザリさんを狙うエネミーの後ろから安全に攻撃できる。精神的に余裕があるからエネミーの動きもよく見える。


「ミザリの武器は弓なんだね」

「はい。遠くでぺちぺちやれるのは気持ちが楽なので」

「自分でスリングショットは使わないの? 他の人とパーティを組んだ時に宣伝になると思うんだけど」

「そうですね。でも私のお店で一番売れるのって矢なんですよ」

「だから弓を使ってるんだね」

「はい。私弓道やってるのでちょうどよかったです」

 

 えへへ、とミザリが小さく笑った。自信なさげな振る舞いが庇護欲をそそる。


 アバターの姿がリアル寄りなら年は近そうだ。リアルでもお友だちになれるかな。


 これで中身が男性だったら色々と信じられなくなりそうだけど。


「ヒナタさんは何をされているんですか?」

「部活のこと?」

「はい。活発な印象がありますけれど、運動部か何かに所属されていたんですか?」

「うん。陸上部に所属してた。中学の頃に優勝したこともあるんだ」

「ほんとですか⁉ すごいじゃないですか!」


 純粋な尊敬のまなざしが照れくさい。


 ミザリの目は前髪で見えないけど。


「ありがとう。でも足を怪我しちゃってね。もう全力疾走はできないって言われてるの」


 雰囲気を重くしないように微笑を心がける。


 私は失敗したみたいだ。正面にある顔があわあわした。


「ご、ごめんなさい! 私普段人と話さないから、つい余計なことをしゃべっちゃって!」


 勢いよく頭を下げられた。


「顔を上げてミザリさん。私はもう乗り越えたし、今はこの世界で思いっきり走れるから」


 言葉が届かない。ほんと、ほんっとごめんなさい。そんな謝罪の言葉が延々と連ねられる。


 際限のなさに意図せず苦笑いがもれた。


「よし! そろそろ先に進もうミザリさん! 奥にはどんなボスが待っているんだろうね? 楽しみだなぁーっ!」


 無理やり話を中断して足を前に出した。


 背後で靴音が迫る。


「本当にごめんなさいヒナタさん。悪気があったわけじゃないんです」

「分かってるよ、もう気にしてないから安心して。それよりそろそろボス部屋だろうし、立ち回りを確認して――」


 おかない? そう告げながら振り向く。


 眼前に、布でぐるぐる巻きにされた頭部があった。紺色の布がその隙間から血走った目をのぞかせる。


 ギョロッとした瞳と目が合った。


「きゃあああああああああああああ――⁉」


 私の口が悲鳴をほとばしらせた。足が勝手に動いて薄暗い森の中を全力疾走する。


「ヒ、ヒナタさん⁉ どこに行くんですか⁉」

「私おばけ苦手なの!」

「これエネミーですよ! おばけじゃありませんから落ち着いてください!」


 意を決して振り向く。


 離れたおかげでミイラ男の全身が映った。紺色の布を全身に巻いた人型がキヒヒと笑う。


『ウィンドメイジ』の文字をいただく人型には脚がない。ソフトクリームの先端みたいに布がつむじを巻いている。


 私が距離を取ったせいか、エネミーがミザリを狙って飛びかかる。


「ごめんミザリ、ちょっと驚いちゃって」

「大丈夫ですよ。ちゃんとかわいかったです」

 

 それ何が大丈夫なの?

 

 思ったけどまずは援護が先だ。バシュ・ネ・モフィラの照準を合わせてトリガーを引く。


 視界の左上にあるMPバーが少し削れる。


【パワーショット】が布に巻かれた頭部で赤い光を散らした。すかさず右手に握る鉱石もセットして連射する。


 ウィンドメイジがのけぞった。いまいましげにこっちをにらんで身をひるがえす。


「隙ありです」


 ミザリが弓に矢をつがえて射出する。


 エネミーはゆらっと動いていたのにしっかり後頭部に命中した。弓道部に属しているのはだてじゃないようだ。


 エネミーの名前のとなりにドクロマークがついた。


「ドクロアイコンって毒の状態を表してるんだっけ?」

「そうですね」


 よく知らないけど、毒ってボスに効きにくいものじゃないの? 


 ウィンドメイジに毒の耐性がないだけ? それとも弓のスキルで毒の効力を増すのがあるんだろうか。


 ウィンドメイジという名前だけあってエネミーが風を放った。すれ違った風の刃が樹木の枝を切り飛ばす。


 すごい切れ味。人の体なんて簡単に両断されそうだ。当たった時を想像して足がすくみそうになる。


 恐れにふたをして弾受けに石をセットする。


 何度か試射して分かったけど、同じ石でもセットするアイテムの種類で威力が変わるみたいだ。石ころよりも鉄鉱石を発射した方がいいダメージが出る。


 レアな鉱石だとダメージのけたが変わるんだろうか。今はもったいないからしたくないけど、いつか試してみたいな。


「ヒナタさん」


 ミザリが何かを放った。


 パシッと受け取って手の平に視線を落とすと、そこには炎を思わせる紅色の球体があった。


「私の商品です。せっかくなので試射してみてください」

「ありがとう。大切に使わせてもらうね」


 もらった一発。外さないようにしないと。

 

 布に覆われた手をかざされて右に跳んだ。風の刃が風切り音を残して視界の隅に消える。

 

 紅色の球体を弾受けにセットして突起に引っかける。


「キエエエエエエエエッ!」


 布まみれの人型が奇声を上げて両腕を掲げた。両手の間で風の渦が吹き荒れる。


 今までに見られなかった行動。奥の手を出すほど追い詰められてるってことか。


 意図せず笑いが込み上げる。


 決着を控えたこの感覚。大会でゴールテープに迫った時を思い出す。


 私は地面を蹴ってウィンドメイジとの距離を詰める。


 両の手の平が向けられた。発射の予兆を感じて大きく跳躍ちょうやくする。


 風の砲弾が足の下を通過して後方に爆音をとどろかせる。


 慣性とともに距離が詰まる中、私は左腕を突き出して人差し指を引く。


 ヘッドショットに遅れて爆炎のエフェクトが散った。ウィンドメイジの人型が炎にのまれてポリゴンの光と化す。


 着地すると目の前にウィンドウが浮かび上がった。『風切りの布』の文字を見つけてふっと口元が緩む。


「やりましたねヒナタさん!」

「うん。最後はちょっとひやひやしたよ」


 私はおもむろに腰を浮かせてミザリに向き直る。


「私にくれた弾すごいね。ぼわっと炎が噴き出てきれいだった」

「えへへ、ありがとうございます。あの弾にはフレアリザードの火炎袋に詰められた粉塵ふんじんを練り込んであってですね、火属性に弱いエネミーに有効なんです」

「そうなんだ。ミザリさん物知りだね」


 だったら火属性の矢もありそうだけど、ウィンドメイジとの交戦で矢が炎のエフェクトを発した覚えはない。


 まさか商品のインパクトを強めるための作戦? だとしたらミザリ頭いいなぁ。


 ミザリが私の前で足を止める。


「ヒナタさん。ボスエネミー討伐お疲れさまでした」


 私が「お疲れさま」を返す前に、ミザリが口角を上げて右手を上げた。


 思わずきょとんとする。


 これは、ハイタッチしていいのかな。


 危うく手の平を打ち合わせるところだった。ミザリはそういうのやらなそうだし、ちゃんと確認してからにしないと。


「ミザリ、それってハイタッチでいいの?」


 沈黙。


 ミザリの白い顔が赤みを帯びた。またブンブンと頭を上げ下げする。


「すみませんすみません! 陰キャなのに調子こいて本当にすみません!」

「違うの、誤解させちゃってごめんね。私もひさしくハイタッチをしてないから戸惑っちゃって。あらためてお願いできる?」


 ミザリがバッと顔を上げた。


「いいんですか?」

「もちろん」


 目元の見えない顔がぱぁーっと輝いた。


「じゃ、じゃあせーので!」

「分かった」

 

 私も右腕を軽く上げる。


「せーの

 せーの」


 いえーいっ! と手の平を打ち鳴らす。


 薄暗い森の中にぱーん! と乾いた音が響き渡った。

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