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第11話

 

 ブーツの裏で土の地面を踏みしめる。


 戦闘エリア『暗魔の森』。ここには防具作成に足りない素材『風切りの布』を得るために来た。


 このエリアは薄暗くて不気味だ。空気はじめじめしているし、そこら辺に虫がわいている。


 視線を上げると枝葉が視界を悪くする。


 薄暗さを背景に垂れ下がるさまは髪の毛みたいだ。たまに人型じみた樹木が混じっていてびくっとする。私はおばけ苦手なのに、どうしてよりにもよってこんなところに素材があるの?


 そう思っていたら樹木が走り寄ってきた。


 プレイヤーキラーかと思ったら違った。どうやらそういうエネミーみたいだ。


 口を突きかけた悲鳴をこらえて左腕を伸ばす。


 『バシュ・ネ・モフィラ*』の記念すべき第一射。照準の突起で慎重に狙いを定める。

 

 弾となる鉱石は前もって弾受け箇所にセットしてある。奇襲に対応できるようになっただけでも気持ちが楽だ。


 射出のトリガーは人差し指を引くこと。感覚的には銃に近いものがある。


 バシュッ! と小気味いい音に遅れてヒットエフェクトの光が散る。


 一発じゃ倒すにはいたらなかった。枝の一振りをかわして再度弾を装填する。


 ひらめいた。


 最初の一撃は人差し指を引くだけで撃てる。


 あらかじめ右手に石を用意しておけば連続して射出できるはず。


 試してみよう。


 右手で新たな石をつまんで狙いをつけた。トリガーを引くなり右手の石を弾受けにセットする。


 再度左の指を引く。


 赤いライトエフェクトが連続して、樹木エネミーがポリゴンとなって砕け散った。


「やった成功!」


 小さくガッツポーズを取る。


 二個目をセットする時にもたついちゃったけど、練習すればもっと早く連射できるはずだ。エネミーも効率よく狩れるようになる。


 夢が広がるなぁ。


「あのぉ」


 人の声を聞いて振り向く。


 人型が立っていた。目元が長い黒髪で隠れて、真っ白な肌は雪のようで生気に欠ける。


 体の前で手首を垂らすさま幽霊そのもので、私は悲鳴を上げてしまった。





「だ、大丈夫ですか?」

「うん。もう大丈夫」


 やっと心臓の鼓動が収まってくれた。ホラーは苦手なのに、ほんと勘弁してほしい。


 視線を上げた先には、相変わらず黒い髪で目元を隠した少女がいる。ご丁寧に身なりは白い着物。これは幽霊のロールプレイだろうか。


 髪はあでやかできれいなのにもったいない。この場に揚羽がいたら美容院まで連行しそうだ。


「それで、私に何か用?」

「その、スリングショット使ってるんだなぁと思いまして」

「そんなにめずらしい?」

「めずらしい、ですね。少なくとも片手の指で数えられる程度しか見たことありません」


 髪で瞳は見えないけど、顔の向きは微かに私から逸れている。


 人前が得意なタイプじゃないようだ。


「だから、これは運命だと思うんです」

「運命?」


 人見知りかに思えた子がディスティニーなことを言いだした。


 私の戸惑いなんて知るよしもなく少女がまくし立てる。


「私飛び道具専門のお店を開いてて、ここには素材集めをしに来たんです」

「飛び道具って言うと銃や弓とか?」

「売れ線はそうですね。でもほんとは私、スリングショットの弾を作りたいんですよ。自由度が高いから色んな物を弾にできますし、私特性の毒を一番有効活用できると思うんです」


 三行くらいしそうなセリフを五秒で言い切ってくれた。


 これはあれだ、好きなことに関して口が達者になるタイプだ。


「もしかして私に営業してる?」

「いえいえそんな。ただ、私がそういうお店を開いてるってことを知ってほしかったんです。みんなちょっといじったら別の武器に魂を売り渡しちゃうので、そうなる前に私の弾を試してほしいなぁーって」


 少女が細い人差し指をつんつんさせる。


 変わった雰囲気のプレイヤーだけど悪い人ではなさそうだ。


「分かった。今度お店をのぞきに行くよ」


 うつむきがちな顔がバッと上げられた。


「本当ですか⁉ ありがとうございます! じゃ、じゃあフレンド申請、どうです⁉」


 少女が前のめりになった。


 勢いに気圧されて、私はこくこくと首を縦に振る。


 少女が宙で人差し指を遊ばせる。


 私の眼前に半透明な長方形が浮かび上がった。フレンド登録申請への返答を要求する文字が連ねられている。


 記されている文字を見た限りでは、少女の名前はミザリというらしい。


 承認のボタンに人差し指の腹をつける。


 口と鼻しか見えない顔が笑みで華やいだ。


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