第102話
休憩中を見計らって訓練場にお邪魔した。
朧さんたちと軽くあいさつを交わしてからルイナさんに声をかけた。
ルイナさんはクエストを進める内に里へ招かれたらしい。訓練に誘われて銃の発砲を行っていたのだとか。私も参加したかったなぁ。
宿の名前を教えてもらって訓練場を後にした。
街に戻るなり宿の部屋を予約した。小夜さんに引き続き里の中を案内してもらう。
昼食には魚の串焼きを食べた。
この前食べた串焼きとは違ったふんわりとした食感。しっとりとした口当たりで食べやすい。
同じ白身なのにこの前食べた魚とは違った味わいだ。地域によって獲れる魚が違うのかな。
途中シャーマンを語る人に呼び止められた。私に風の力を感じて声をかけたらしい。
人の限界を超えた時、新たに風神から加護を授けられるであろう。シャーマンはそんな気になる文言を告げて消えた。付近を捜索しても彼女はどこにも見当たらなかった。
走るなどして風に触れると力が増すみたいなことを言っていた。おそらく【慣性】スキルについて触れていたんだと思う。
気にしても仕方ない。
私は日が落ちる前に小夜さんと解散した。宿にチェックインして部屋に入る。
入浴の道具を持ってルイナさんの部屋を訪れた。
「お待たせ。温泉行こう」
「ええ」
準備万端のフレンドと温泉の湯につかった。
じんわりと熱に体を包まれて、意図せず口から吐息がもれる。
「ゲームで温泉に入るなんて不思議な感じだね」
「そうね。ラティカでは泳いだこともあるけれど、お湯に入ったのは私も今日が初めてよ」
「ルイナさんは今日ここに来たの?」
「いいえ、昨晩からお邪魔してる。もっともヒナタが来なかったら温泉には入らなかったでしょうね」
「お風呂嫌い?」
「どちらかと言えば好きだけれど、アイセの中だと汗をかかないでしょう。どうせリアルで入るのだから入浴の必要はないと思って」
「それは一理あるかもね」
一応この湯に一定時間つかると一定時間HP自動回復の効果が発動する。
でもこの前釣り場でルイナさんが言っていた。攻撃力に関係しない要素は軽視されると。
大半のプレイヤーは、アイセ内の温泉につかることすらないのだろう。
「それに忍者のステータスを見るとちょっと焦る。鬼に劣る彼らがあのステータスなんだもの、イベントが始まったらどこまでやれるか不安になるわ」
「へえ、ルイナさんステータス見れるんだ。マギクラフトのジョブって便利なんだね」
「え?」
ルイナさんが目を丸くする。
あれ、私何か変なことを言ったかな。
「もしかしてステータス視認を取ってないの? スキルツリーで適当なスキルを三つ取得したら称号で得られるのに」
すごい驚きようだ。しちゃいけないようなことをした気分になる。
意図せず視線が逃げた。
「実はさ、スキルツリー全然触ってないんだよね。AGIにポイント全部振ってるから」
「全部? スキルを持ってないってこと?」
「一つだけ持ってるよ。慣性Lv1って言うスキル」
「それどういうスキルなの?」
「んー、速さに応じて攻撃力が上がるスキルかな?」
「ずいぶんあいまいね。自分のことなのに」
呆れ混じりの視線を見つけられてあははと笑う。
もうなんか、笑うことしかできない。
「スキルツリー開いてみて」
ルイナさんが寄ってきた。湯面から出した手の平に木の実が実体化する。
「開いたよ」
「じゃあこれ食べて。食べたら最初のスキルを取得して」
「そんなことできるの?」
「ええ」
私は半信半疑で木の実を口にした。渋みに遅れてスキルツリーのアイコンが光る。
「光った」
「すぐに取得して。効果時間は短いから」
「分かった」
人差し指の先端でアイコンを突く。
【『ステータス異常短縮Lv1』を取得しました】
気分がふわっと浮き上がった。
「できた! スキル取得できたよルイナさん!」
「おめでとう。でもそろそろスキル消えるわよ」
「え?」
ウィンドウに視線を戻す。
上半身のアイコンが鎖に巻かれた。
「なにこの鎖」
「制限がかけられたのよ。あなたのステータスが元に戻ったから」
「そんなぁ」
やっと二つ目のスキルを取得できたと思ったのに。
「でも待って、さっきの木の実を食べたらまたスキルを取得できるってことだよね?」
「取得する必要はないわ。ステータスを上げて条件を満たせば自然と効力を発揮するから」
「意外と柔軟なんだね。教えてくれてありがとう」
ルイナさん優しいなぁ。私を小ばかにしないどころか、スキルの取得方法まで教えてくれるなんて。
この宿泊を機にもっと仲良くなれたらいいな。