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第101話


 ひとまずHPを回復してから小夜さんに怒られた。


 誰かに怒られるのいつぶりだろう。童心に帰ったみたいでちょっと恥ずかしいな。


「まったく、調子に乗って自爆しそうになるところも妹にそっくりだな。こういうところまで似なくていいものを」

「おちゃめな妹さんだったんですね」


 目を細められて背筋を伸ばす。


 小夜さんが小さく嘆息した。


「あまり反省していないようだな。ヒナタには安易に技を授けない方がいいのかもしれん」

「そんな! 反省してます、私反省してますから!」


 ここまできておあずけなんてあんまりだ。


「もう無茶はしないか?」

「しません絶対に。なので教えてください」

「信じよう。まあ信じたところで教えることはないのだが」

「やっぱり忍術を教えるには時間がありませんか」

「ああ。鬼との決戦に備える時間が必要なのもそうだが、一度里に戻ってみようと思うんだ」

「それはいいですね。朧さんたち以外にも心配している人はいるでしょうし」

「ヒナタも一緒に来ないか?」

「私も?」

「ああ。ヒナタは命の恩人だ。里のみんなにも紹介したい」


 思わず目を見張る。


「いいんですか? 私完全によそ者ですけど」

おぼろから里長の許可が出たと聞いている。問題はないよ」


 目の前にウィンドウが表示される。




【『忍者の里へ』を受注しますか?】

『はい』『いいえ』




 クエストだ。


 もちろん『はい』の文字を押した。


「了解した。では今夜最初に会った丘まで来てくれ」

「分かりました」


 忍者の里かぁ。どんな場所なんだろう。子供が建物や公共施設でパルクールやってるとか?


 そういえば小夜さんから受けた二つのクエストまだ達成してないな。これから達成することになるんだろうか。


 

 ◇



 きらびやかな空間に二人の男性が立ち寄った。


 彼らの肌に走るのは禍々しい模様。鬼の証にふさわしく人間離れした跳躍で天守閣の階段を飛ばす。


 二人が一室を訪れて障子の前で正座した。


「ザンキさん、リバークとサムです」

「入れ」


 男性が障子の戸を開く。


 着物姿が座布団の上にあった。筆を手にして白い紙面を汚し、我が家同然にくつろいでいる。


 二人がたたみの上で再び膝をたたむ。


 声をかけることはしない。ザンキが書道にたしなむ姿を黙して見守る。


 やがて一人が口を開いた。


「あの、ザン――」

「黙れ」


 リバークに命じられてサムが口を閉じる。


 静かな時間を経てザンキが筆を置いた。座布団の上でゆっくりと向き直る。


「聞こう」

「何を?」


 首の支えを失った頭部がたたみの上を転がる。


 パリンと弾けた人型を気にもとめない。残ったリバークが口を開いた。

 

「今進めているクエストを達成いたしました」

「ご苦労。こちらも進展があった。忍者の潜む地が見つかったようだ」

「では」

「ああ。大名の首を取りたいところだが、奴はいまだ姿を見せない。イベントが開催されるまで手出しはできないのだろう。そこでまずはしのびどもを潰すことにした。過激派の妖怪と連携して里長の首を取れ」

「御意」


 ザンキが座布団の上から腰を浮かせた。


 リバークに歩みって腕を伸ばす。


「お前にこれを貸し与える」


 手元に杖が実体化した。枝のごとく分かれた先端で赤や青の玉がほのかな光を発する。


「これは、妖仙樹の玉枝たまえ

「左様。あの間抜けは武器のスペックを活かし切れなかったが、お前なら十二分に使いこなせるだろう」

「ありがたく頂戴ちょうだいいたします」

 

 男性が杖を受け取ってポーチに収める。


 ザンキが座布団の上に戻って膝をたたんだ。


「行け。お前は俺を失望させるな」

「お任せください。必ずやご期待に応えてみせましょう」

 

 ザンキが再び筆を握る。


 リバークが一礼して部屋を後にした。



 ◇



 日が落ちて夜のトバリが下りた。


 私は待ち合わせ場所の丘まで走った。小夜さんと合流して忍びの里へと出発する。


 修行がてらに夜天の下を走る。霊力を込める修行をした山に入って罠をかいくぐりながら進む。


 小夜さんいわく、わざと山を突っ切ることで尾行を巻く意味があるらしい。


 鬼が尾行するんだろうか。私と小夜さんのスピードについてこれるとは到底思えないけど。


 あっさり山を抜けて草原に出た。


 開けた空間で一服したのもつかの間。また自然の中に身を投じる。


 夜が明けて視界内が明るみを取り戻す。


 土と樹木の濃厚な芳香を堪能たんのうした末に門が映った。


「あそこが私の故郷、枇杷びわの里だ」


 門の前で徒歩に移行する。


 門の向こう側には和風の街並みが広がっている。

 

 妖華も和風だけど枇杷の里は共有スペースが広い。まだ朝早いのに子供が遊具で遊んでいる。体を動かす子供たちは活き活きとして見える。


 リアルの公園にあった遊具は大半が撤去されたと聞く。じゃれ合う子供の笑顔なんてありふれているはずなのに物珍しく感じる。


 口元を緩ませて小夜さんの後に続く。


 石だたみの地面を踏み鳴らした先に木造の建物があった。建築物に入って里長を務める男性と向かい合う。


 自己紹介に続いて、小夜さんを助けてくれてありがとうと告げられた。


 里の忍者は争いに備えて訓練に励んでいるらしい。表現がオブラートに包まれていたけど、いそがしいから大してもてなしはできないと説明された。

 

「構いません。一目見たかっただけですから」

「すまない。本当は同胞の恩人をもてなしたいところなのだが」

「気にしないでください。小夜さんの故郷を一目見たかっただけですから。迷惑になるくらいなら日が上がり切る前に里を出ます」

「恩人にそこまでさせるのは心苦しい。小夜、お前はしばらく安静だったな」

「はい。医者にそう言い渡されております」

「それならヒナタ殿を案内してやりなさい。歓迎会を開くことはできないが、客人を泊める施設はある。楽しんで観光できるようにサポートして差し上げろ」

「御意」


 話が一区切りして小夜さんが座布団の上から腰を浮かせた。


 私も一礼して建物の外に出た。


「ヒナタ、訓練の見学に行かないか? 朧たちはそこにいると思うんだ」

「私もあいさつしたいですけど訓練の邪魔になりませんか?」

「見学だけなら大丈夫だ」


 それなら迷う理由はない。私は了承の意を示して徒歩移動する。


 訓練場は樹木に囲まれた場所にあった。木々は音を吸うって聞いたことがある。騒音を気にしてのことだろう。


 乾いた破裂音が連続する。


 見下ろすと男女が一列になって銃を構えていた。号令がかけられて発砲音が連続する。


「忍者も銃を使うんですね」

「飛び道具があるに越したことはないからな。頭に当たれば一撃でほうむれることもある。全ての鬼が地下で交戦した個体ほど屈強ってわけじゃないんだ」


 天守閣で遭遇したプレイヤーを思い出す。


 鬼と戦うってことは、いずれあの人とも戦うことになる。仮面の力でどうにかなればいいけど。


「あれ」


 見覚えのある顔を見つけてまばたきを繰り返す。


 銃を持つ忍者の中にルイナさんの姿があった。


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