第10話
バーバラさんの紹介で防具屋への道のりを歩く。
バーバラさんに提示された条件は一つ。イベントで勝ち残ったら武器を掲げて、バーバラさんのショップで武器を作ったから勝てたー! と宣言することだ。
それ自体はすぐに了承した。
『バシュ・ネ・モフィラ*』にはちゃんとAGIの補正値をつけてくれたし、大成功の印もついてる。お店の宣伝くらいなら断る理由はない。
でもその後で話がややこしい方向に曲がった。
読モにしろファッションモデルにしろ、商品を宣伝する人はみんな華やかだ。
私にもそれが求められた。問題ないとごねたものの、素材良いんだからと押し切られて防具を買う羽目になった。
その分の代金は貸してもらえたから別にいいんだけど、あんまり高い物を購入すると返済に時間が掛かりそうなのがネックだ。
行きついた先はおしゃれな白い建物だった。街の景観が中世風だから余計に輝いて見える。
木製のドアを開けるなりドアチャイムに歓迎された。思わず足を止めて目を見張る。
防具と言えば甲冑や鎧だ。てっきりゴテゴテした品で満たされた内装を想像していた。
想像とは裏腹に店内は華やかだ。ひらひらしていてかわいい代物も置いてある。
ここは本当に防具を取りあつかう店舗なのかな。
「いらっしゃい。あなたがこんこんちゃん?」
店舗の内装に違わずおしゃれな女性が歩み寄る。
いかにもキャリアウーマンといった感じの様相だ。立ち姿がすらっとしていた格好いい。
「はい。始めまして、ヒナタです」
「この防具屋を営んでいるシメアよ。連絡をもらった時は驚いたけど、こんなにかわいい子なら大歓迎だわ。さあ、どうぞこちらへ」
シメアさんの背中を追って清潔感のある廊下に踏み入る。
「ここはきれいな店舗ですね。防具屋って言うから甲冑が並んでると思ってました」
「そういうイメージを持っている人多いわよね。ゴテゴテした物を着たくないから防具はいらないって子もいる。ここはそういう子たちでも抵抗なく着用できる品を取りあつかっているの」
進んだ先で談話室に通された。ソファーに腰かけてテーブル越しに向かい合う。
「防具を買いに来たって話だけれど、何かコンセプトはある?」
「はい。個人的にAGIに特化したビルドをしているので、防具にもAGIのボーナスがあればいいなと思っています」
「AGIか。速く移動できるのは利点よね。特化させるプレイヤーは前例がないけれど」
「そう、ですか」
ショップも慈善事業じゃない。売れ線アイテムで内装を飾るのは当然だ。さらにAGI特化させたかったけどこればかりは仕方ない。
防具は防御を上げるための物だ。素直にVITが上がる物を選べばいっか。
「分かりました。VITを上げる物でもいいので、商品を見せてもらえますか?」
「待って。AGIを上げる防具が無いとは言ってないわよ」
「あるんですか?」
「ええ。保管コストがあるから作ってないだけでレシピはあるの」
シメアさんが宙で指を遊ばせる。
半透明な長方形が浮かび上がった。細い人差し指に突かれて反転する。
それは防具作成に必要なレシピだった。
「これなら今のあなたでも作れると思う。足りない素材を持ってきたら作ってあげるわ」
「分かりました。親身になってくれてありがとうございます」
足りない素材の入手先を耳に入れて、私はシメアさんのお店を後にした。