Episode:09
あたしたち学院生が「ケンディクへ行く」と言うときは、実際には港の周辺を指す。
南北に長めの大陸国家――といっても大陸としては最小――の南西隅に、ケンディクはあった。
はるか西、海を挟んだ向こうはアヴァン大陸。だからこの町は、古くから海の向こうとこの大陸とを結び、貿易の中心地として栄えてきた。
町のいちばん南部は、港だ。他に港から運ばれたものを売り買いする市場、小さな店なんかがいっぱいあって、賑わっている。あと景観のよさで、観光スポットとしても人気があった。学院生が出歩くのもこの辺りだ。
港の西から北西の海沿いは、商業区と呼ばれている。貿易関係の会社なんかがたくさんあって、そこに勤める人向けの商店や飲食店が多い。ただここは大人向けで全般的に高いから、あたしたちはあんまり行かなかった。
港の東側で目立つのは、シエラの分校だ。なにしろ規模だけは本校を上回るから、その敷地もとても広い。聞いた話じゃ、昔の大貴族の持っていた敷地を、丸ごと使ったんだって言う。
あともうひとつ目に付くのは、「裏町」とでも言うものだ。ロデスティオのスラムほどじゃないけど、そういう場所になっていて、あまり普通の人たちは近寄らなかった。
港の北、町の中心部に当たる辺りは行政区だ。そういう行政機関がいっぱいある。
あとここは元々、ここを支配していた領主や貴族たちの住むところだった。だから宮殿や石造りの古い町並み、劇場、大図書館なんかが集中していて、観光の目玉になっている。
周辺、特に北側は高級住宅街が広がるし、その人たちが買いにくる高級な店がたくさんあって、独特の雰囲気だっていう。
そして軌道バスがたくさん走っているのは、行政区と商業区だった。だから探している店は、このどこかなんだろう。
「やっぱり、行政区かな……?」
「かな。商業区、そゆ店あんま、なさそうだ」
意見が一致する。
「えっと、じゃぁ何番路線……」
「1番だ。行政区だから」
アーマル君、シエラに在籍が長いからケンディクも良く知ってるみたいだ。迷いもなく歩いていく後を、ついていく。
――ひとりで来なくてよかった。
あたしだけじゃ街の勝手が分からなくて、きっと迷っていたはずだ。
でもあの時は迷ったからこそ、イマドと会えたわけで……。
「ルーフェイア?」
「え? あ、ごめん……」
考え事をしてたら、距離が離れてしまった。
「ごめん、早すぎた」
「ううん、あたしこそ……」
さっきもそうだったけど、本当に優しいな、と思う。こうやって合わせてくれるのは、あとはイマドと、シルファ先輩くらいだろう。
駅の脇――長距離列車の終着駅で、昔は貨物専用だった――を抜けて、すぐ先の停留所へ着くと、軌道バスがちょうど来たところだった。