Episode:07
◇Rufeir
海は穏やかだった。
――晴れて、良かった。
海が荒れると当たり前だけど、連絡船は欠航だ。それに雨の海は、なんだか寂しくて苦手だった。
けど今日は遠くまで見渡せるほどいい天気だから、とても綺麗だ。
新年を数日過ぎたせいか、それともまだ早いからなのか、船着場に人影はなかった。
あと少しで定時だからだろう、船頭さんが来る。
「おや独りでなんて珍しい。どこまで行くんだい?」
「いえ、友達と……待ち合わせてて」
答えると、船頭さんがうなずいた。
「なるほどね。けど、待ち人来たらずってとこかな?」
「……はい」
約束したはずなのにアーマル君、まだ来ない。もしかして、忘れちゃったんだろうか?
「そろそろ時間だよ。どうする?」
「あ、えっと……」
乗るのは諦めて、探しに行ったほうがいいんだろうか?
そのとき、大きな声が聞こえた。
「船、待ってくれー!」
船頭さんと顔を見合わせる。
「来たのかな?」
「はい」
肌が黒いおかげで目立つ姿は、見間違えようがない。
アーマル君は手を振りながら、坂をすごい勢いで駆け下りてきて――転んだ。
「ありゃ、大丈夫かな?」
「あたし、ちょっと見て……」
言っているうちに彼、立ち上がってまた同じ勢いで駆けてくる。すごいバイタリティだ。
「いやぁ、頑張るねぇ」
船頭さんは笑ってるけど、あたしは内心感心してた。
戦場で万一重傷を負ったとき、生死を決めるのは精神力だ。だから今のアーマル君みたいに、痛みをものともせず動ける人は強い。
ああいうふうに振舞えるなら、きっと彼、最前線でも生き残れるだろう。
そんなことを思ってる間に、アーマル君が目の前まで来る。身体を負って息を荒くして、ちょっと辛そうだ。
「……だいじょうぶ? あと、怪我とか」
「え? あ、ヘーキヘーキ」
息を整えて、彼が笑ってみせる。本当に強い。
「ほら2人とも、ケンディク行くなら早く乗って」
「あ、はい」
促されて、慌てて乗り込んだ。