Episode:54
「さてさて、ロドマ殿のひ孫よ。いろいろと、情けないところを見せてしまったな」
「あの、アーマルで十分です。てか、情けなくとかないです」
なんたって、ニルギアがまるごとひとつ潰れるような話だ。しかもおじいさんなんて、その真っ只中に居た人だ。簡単になんて行かないんだろう。
「ロドマ殿に似て、真っ直ぐないい子じゃな。まぁ今回のことは、ワシに免じて許してくれんか? ジュマにはよく言い聞かせておくのでの」
「そんな、許すとか!」
あるわけない。分かってもらって、かばってもらって、親切にしてもらったのに。
何より、初めて会った親戚だ。
「ほんにいい子じゃなぁ」
おじいさんが目を細めて、すごく嬉しそうになる。
こんな表情してもらえて良かった。会いに来て良かった。
「出来たら、そなたとニルギアへ行きたいのぉ。あの山、あの大地、あの聖地。教えてやりたいことが、たくさんあるんじゃ……」
「あの、じゃぁ俺、働きます!」
気づいたときにはそう言ってた。
「たくさん働いて、旅費貯めますから! あと何年かかるか分からないけど、頑張りますから」
そこまで言って、はっとする。そんな先までおじいさん、生きてられるだろうか?
おじいさんも、同じことを思ったらしい。
「いいんじゃよ、そこまで気を遣ってもらわんでも。なんせこの年じゃから、明日にでもくたばるかもしれんし」
「けど……」
たしかにそうかもしれないけど、そんなのイヤだ。俺、おじいさんと一緒にニルギア行きたい。
「なら、行きますか? この夏にでも」
横から割り込んだのは、教授の声だった。
「ティティの末裔と、部族の証の指輪が見つかっては、早く現地調査に行かないと。もちろん、一緒に行ってもらいますぞ」
「ワシは施しなぞ浮けんぞ? 長老がそんな真似をしては、沽券に関わるからの」
言い返すおじいさんに、教授が意味ありげな笑みを見せる。
「誰がイファ殿だと言いましたかな? 私が連れて行くのは、こちらの少年ですよ」
そして明後日のほうを向いて、うそぶいた。
「ただ、この子はまだ未成年ですからねぇ……誰か後見人を、同行させないと」
「ふぅむ」
おじいさんが顎に手を当てて、考え込む。
「それは困ったのぉ。この子には親がおらんから、誰か行かなくてはならんな」
見え透いたやりとりに、みんな笑いをこらえるのに必死だ。
「いいか、ワシはこの子に付いて行くんじゃからな?」
「分かってますよ。それよりイファ殿、夏までは生きてくださらないと、この子が後見人を無くして、行けなくなってしまいますぞ?」
「分かっとるわ」
もうこれには、悪いと思いながらも、吹き出して大笑いするしかない。