Episode:52
「要するにアンタ、やっぱ自分のためじゃないか! その運動でアンタの気は済んでも、俺はどうなんだよ!」
どうしてか分かんないけど、また泣きたくなる。
ニルギアがヒドい目に遭ったのは、本当だ。そのせいで今もヒドい目に遭ってる人がいるのも、ウソじゃない。俺の親もたぶん、一部はそういうことが原因だ。
けどそれでも、納得いかなかった。
たしかに全部取られた。親も、住むところも、何もかも。
だけどシエラに拾われて、掴んだ。食べるもの、住むところ、先輩、友達……。
「運が良かっただけかもしんないけど。けど俺だって頑張ったんだ! じゃなきゃシエラの、Aクラスに居られるかよ!」
もう何が言いたいかも分からない。ただただ、押し付けられる何かがイヤだった。
「……ジュマ君、やめなさい。この子にそういうものを、背負わせちゃいけないよ」
教授の静かな声が響く。
さらに別の声が加わった。
「そうじゃぞ、ジュマ。この子の先行きは、この子が決めねばならん」
言ってまた、おじいさんが俺の頭を撫でた。
「過酷な運命の中、この子は不思議と助けられて、まっすぐ育った。それは大切にせねばならん。曲げてはダメじゃ」
さらにおじいさんが、ルーフェイアのほうを見る。
「ごらんジュマ、あの子を。あれほど姿が違っても、この2人は互いに相手を友達だという。それこそが、お前の目指す世界ではないのかの?」
静かに諭されて、ジュマさんがうなだれた。
「そなたは確かに、不運じゃった。理不尽な目にもずいぶん遭うた。それはワシも認めよう」
おじいさんのシワだらけの黒い手が、少し色の薄い、ジュマさんの手を握る。
「じゃがの、その恨みを継がせてはならん。どれほど苦しくても、若い者に継がせてはならん。それが大地の教えじゃ」
遠くを夢見る瞳。
「遥かな大地から引き離されて、北の地からも逃げ出して……ここへ来てやっと落ちついたとき、ワシは夢を見たのじゃ。ネラマニ様の夢じゃった」
ネラマニと言えばたしか、豊穣の女神か何かだ。
「女神様は、ワシに言われた。恨みは捨てよと。女神なる自分が引き受けるから、恨みは捨てて同胞の支えになれと。くれぐれも、恨みから何かをしてはならぬと」
おじいさんが深く息を吐いた。
「ワシもの、最初は意味も、どうしていいかも分からんかった。じゃがネラマニ様の言うことじゃ、なんとしてでも従わねばならんと思うて、必死に同胞を助けて回っての」
にこり、とおじいさんが笑う。
「気づいたら、ワシを捕らえた者への恨みは消えておって、そのときやっと分かったんじゃ。あのまま恨んでおっても、時間のムダじゃったと」
ジュマさんが「意味が分からない」という顔になった。