Episode:50
「歳から見て、お前さんはきっと、ロドマ殿のひ孫じゃな。親御さんが混乱の中、その珍しい名を借りたんじゃろう。お前さんが独りになっても、どこの誰か分かるように」
「あ……!」
たしかにそうだ。そんな騒ぎがあった名前なら、覚えてる人だってたくさんいるはずだ。
「あのときは分からんかったが、ご先祖様はこの日が来るのを、分かっておったんじゃのう。こんな珍しい名じゃなければ、会っても分からんかった」
「――はい」
きっとそうなんだと思った。そんなおかしなこと信じるのかとか、ただの偶然だとか言われそうだけど、俺的にはご先祖様のおかげだと思う。そういうことがあったっていい。
「……イファさんすみません、つまりどういうことでしょう?」
感激してる俺たちの間に、妙に冷たい声が入った。ジュマって人だ。
「む、分からんかったか? 要するにこの子は、偉大なるティティ王国の末裔、ラダ=ティティ族の生き残りじゃ」
「やっぱり、それでいいんですね」
やり取りが続くけど、どっかがヘンだ。何かすっきり入ってこない。
ジュマさんが、俺のほうに向き直った。
「アーマル、だったな。俺たちと一緒に、解放運動をやらないか?」
「解放……?」
よく分からなくて、思わず繰り返す。
ジュマさんが訳知り顔で頷いて、話し始めた。
「お前も少しは知っただろう? ともかくエバスやその周辺じゃ、俺たちニルギア系の人間は、まともな職にも就けない。それを何とかするんだ」
「え、でも、それってさっき……」
さっきそれで、大騒ぎになったはずだ。で、教授からこの人、やり直せって大学に誘われたはずだ。
ジュマさんが、また頷いた。
「そうだ。俺はもう一度大学へ行く。そしてまた、解放運動をする。一緒にやろう」
要するに、今じゃないけどこれから、そういう運動に加われってことらしい。
少し考える。
俺はあんまり実感なかったけど、ニルギア出身の人が特に西の大陸で、大変なのはたしかみたいだ。実際俺もこのケンディクで、あんなふうに襲われたし。
けど、なんでだろう? 正しいことのはずなのに、どうしても心の底から賛成できない。
「なぜ悩む? 自分の同胞が困ってるなら手を差し伸べる、当たり前の話だろう?」
そう、当たり前のことだ。なのに、何かがやっぱりおかしい。
「……いい加減にしたらどうですか」
厳しい声で割って入ったのは、ルーフェイアだった。
この子がこんなふうに怒って、こんな声出すなんて、初めて見た気がする。




