Episode:48
感激してるおじいさんに、教授が横から恐る恐るって感じ――この人にそんな感覚あったんだ――で、言葉をかける。
「実はこの子、部族の証を持ってまして」
「なんと、本当か?!」
おじいさんまでもが、驚いて声を上げた。やっぱり俺の指輪、かなりのものらしい。
「まぁこの子自身は、早くにご両親を亡くしたとかで、何も聞いてないそうですが」
「そうじゃろうの。じゃなきゃ、こんな離れたケンディクになぞ、居るわけが無い」
うなずいた後、おじいさんが俺のほうに手を出した。
「坊や、良かったら見せてくれんかの?」
「あ、はい、どうぞ」
鎖ごと、首から外して渡す。
それをおじいさんは、まるで何かの捧げ物みたいに恭しく受け取った。
「おぉ、ネラマニの印か。これはずいぶん由緒正しいものだな。む、文字が小さいの」
「私が読んだ限りでは、ドラバ=ンドクの娘、エンマ=オルニテの子にこれを贈る。末永く栄えんことを、と書いてありましたぞ」
言いながら教授が、拡大鏡を差し出す。
「どれどれ……なんと、本当じゃ!」
おじいさんの手が震えだした。
「間違いない、間違いないぞ……ゴルン山の南、豊かなるティティの末裔、ラダ=ティティ族。こんなところで出会えるとは!」
「あの、知ってるんですか?!」
思わず尋ねると、おじいさんが俺の肩を掴んだ。
「知ってるも何も! これはな、ワシの一番上の姉の嫁ぎ先でラダ=ティティの族長、ロドマ=ラダ殿が持っていたものじゃ!」
「え……」
頭がついていかない。
俺の指輪が「部族の証」って呼ばれるもので、元々は誰かニルギアの族長が持ってたもので、それがこのおじいさんが知ってる人で……。
「じゃ、じゃぁ……もしかして、親戚?!」
「そのとおりじゃ!」
おじいさんが、俺を抱き寄せた。
「よう生きとった。よう生きとった。ご先祖様に護られたんじゃなぁ……」
枯れた、でも力強い腕の中。
「姉のところはやられて、部族が全滅でな、もう誰も残っとらんと思っとった。けど誰かが、これを持って逃げ延びたんじゃろうな」
おじいさんの涙が俺を濡らす。
「ワシのところもそのあとやられて、売られて散り散りでな。あとで風の噂に聞いたが、やはり部族は全滅だそうじゃ」
何も言えなかった。普通に暮らしてただけなのに、なんでそんなことに、ならなきゃならないんだろう?