Episode:47
「ホントに、ここなんですか?」
「そうだよ。あぁ、この家にびっくりりしたのか」
教授がうなずいた。
「本当はね、どうにかしてあげたいところなんだが、なかなかね……。何よりイファさん自身が、人の世話にはならないと言い切っているし」
イファさんっていうのはすごい人なんだな、と思う。ふつうは誰かがどうにかしてくれるって言ったら、喜んでやってもらうのに。
「まぁニルギアの文化が、年長者は手本になるべし、だからね。世話になるなんてプライドが許さないんだろう」
俺はそんなふうになれるかな、と思った。今だってこれだけシエラの世話になってるのに、大人になって毅然と断れるだろうか?
逆に言うとニルギアがどんなところなのか、これだけでも分かる。
「ちょっと待っててくれないか、挨拶してくるから」
「はい」
きっといきなり何人もで押しかけるのは、マナー違反なんだろう。
まず顔見知りの教授とジュマさんが、家の外から声をかけた。
「ペドジフとジュマです。イファ殿、入ってもよろしいですか?」
「おお、そなたらか。入れ入れ」
意外なくらい張りのある声が返ってくる。
「ちょっとこのまま、ここで待っててもらえるかい?」
俺たちにそう言い置いて、教授たちが入っていった。
おじいさん、ちょっと耳が遠いんだろか? けっこう大きな声で、やり取りしてるのが聞こえる。
「――そういうわけで、外に何人か待ってまして」
「気の利かんヤツじゃ。早よう入れてやらんか」
おじいさんの許可が降りて、教授が外れそうな扉を開けた。
「ほら、おいで。ちゃんとご挨拶するんだぞ」
「はい」
薄暗い中に目が慣れて最初に見えたのは、雑然と物が置いてある中で目立つ、白い歯とヒゲだった。
「よう来たの、ワシがイファじゃ。ニルギア生まれというのは、そなたじゃな?」
一目見た瞬間、何かが身体の中を駆け巡った。
同じ肌の色をした、同じ血を持つ人。今まで会った誰よりも、俺に似てる。
おじいさんも、同じことを思ったみたいだった。
「なんとまぁ、本当にニルギアの血じゃ。いったい何年ぶりじゃろう」
おじいさんが立ち上がって、杖をつきながら俺のとこへ来る。
「お前さん、もしかしてニルギア生まれか? かすかだが、あの大地の匂いがする。懐かしいのう……」
とっても痩せた、なのにしっかり力のある手が、俺の頭を撫でた。
「よう来た、よう来た。いままでいろいろ、あったんじゃろうなぁ」
言われた瞬間、また泣きそうになる。なんか今日、俺ダメだ。