Episode:46
「もしかして、いろいろ考えてるのかな?」
「え? えぇ、はい……」
俺の顔をちらっと見て、お姉さんがそんなことを言う。てか、すぐ気がつくあたり、さすがだ。
「分かるよ、それ。私も初めて聞いたときは、考えちゃったもの」
お姉さんも同じだったとかって分かって、ちょっと嬉しくなる俺、ダメなヤツかも。でもどうしても、教授よりお姉さんだ。
「でもね、だからこそ教授、ニルギアに傾倒してるんだと思う。あそこって不思議だけど、大地に惹かれて来た人を拒まないから」
「そうなんですか?」
すごく意外だ。教授みたいな外見の人にひどい目に遭わされたのに、受け入れるとかすごすぎる。俺だったらムリだ。
「ホントよ。大地が広いからかな? ニルギアが好きな人はどこの人でも、ニルギアの子なんだって」
「へぇ……」
写影で見た広い大地と空に、自由な雰囲気が見えてくる。
どこが誰のものとか、せせこましいことなんてなくて、みんな思うままに大地を駆けてたんだろう。
「いいよねー、そういうの。私もカレシ、そういう人がいいなぁ」
お姉さんの夢見る表情。めちゃくちゃ魅力的だけど、「カレシ」の中に俺は入ってなさそうだから、ちょっと複雑だ。
――って、何考えてんだよ俺。
こんなに目移りしまくって、これじゃただの浮気者だ。
心配になってルーフェイアのほう見ると、気づいた感じはなかった。バトル以外じゃおっとりしてるし大人しいから、こういうのもあんまり考えないんだろう。
ほっとしてる自分を、ちょっとだけ後ろめたく思いながら、お姉さんに質問する。
「ニルギア、何回くらい行ったんですか?」
ああいうふうに言うからには、きっと行ったことあるはずだ。
「2回行ったわよ。ってもそんな奥のほうじゃなくて、町から遠くない、観光を受け入れてくれる村だけだけど」
よく分からなくて訊くと、いくつかの村がツアーの拠点やルートになってて、昔ながらの生活を見せてくれるってことだった。
「それってどうかな、っては、ちょっと思うんだけど。でも外から来た人は、いきなり石臼に火吹き棒の生活なんてムリだから、ありがたいしね。向こうもお金が手に入るから、助かる部分あるし」
難しくてイマイチの部分もあるけど、お姉さんが言いたいのは要するに、折り合いつけてくしかないってことなんだろう。
ただやっぱり、変わらないでほしい気がする。俺のワガママかもしれないけど。
そんなこと考えながら歩ってたら、前のほうで教授たちが立ち止まった。
「ここだよ」
「え……」
言葉が出てこない。
だって目の前にあるの、崩れそうな小屋だ。こんな酷いとこにそのおじいさん、住んでんだろか。