Episode:44
◇Armal
昼なのに薄暗い道だった。
ケンディクでこういう場所は、実は少ない。なにせこの街ユリアスの南部にあって、温暖でしかも観光が売りだから、全体的に明るくて爽やかだ。だから余計に、異質な感じだった。
けどこういうところに住まなきゃいけないってことは、それだけ大変なんだろうなとも思う。
だってもしお金があったら、もっと開けた商業区か行政区に住むはずだ。だからここに居る人たちは、みんな何かの理由で貧乏なんだろう。
正直俺だってシエラに拾われてなきゃ良くてここ、下手すりゃもっとヒドイことになってたわけで、そう思うと他人事じゃない。
ここの人たちがみんなで行政区に住むには、どうすりゃいいんだろうと思いながら、通りを歩く。
「教授、イファさんってもう80歳でしたっけ? お元気ですよねー」
お姉さんは慣れてるらしくて、ほとんど気にしてなかった。もしかすると、ここの出身なのかもしれない。
「正確な歳は、よく分からんのだがね。ただ覚えてる出来事と大雑把な歳を照らし合わせると、そのくらいにはなるはずだ」
会いに行く人は、ずいぶん年寄りみたいだ。それで俺の親か爺さんか……ともかくそういう人と同郷なんて、すごすぎる。
やたらと期待しちゃいけないと思いつつ、わくわくするのを押さえらんない。だって俺にとっちゃ初めての、同じルーツを持つ人だ。
――会ったら、なんて言おう?
あんまり気安くしたらおかしいし、かといって畏まりすぎてもダメだろうし。
てか、よく考えたら俺、ニルギアのしきたりぜんっぜん知らない。ヤバい。
「あの、教授」
いちばん手近に居る、いちばん知ってそうな人に声をかける。
「なんだい、少年」
この人ヘンな呼び方するなと思いながら、俺は質問した。
「えっと、その、俺、ニルギアのやり方とか、何にも知らなくて……。会ったら、どうすればいいんですか?」
教授が笑い出して、俺の肩を叩いた。なんか腹立つ。
「いやいや、立派だよ少年。そうやって自分のルーツに気を配るのは、なかなか出来るもんじゃない」
褒めてるらしいけど、だったらなんで笑うんだ?
「あぁすまんすまん、笑ったのが気に障ったか。いや、可愛かっただけだよ少年」
って可愛いとか言われると、余計腹立つわけで……。ルーフェイアみたいな女子ならともかく、男子の俺に可愛いってナシだろう。
けど教授、余計に笑う。
「いやぁ、悪い悪い。でもほら、子供は私なんかから見りゃ可愛いもんだよ」
可愛いとか言った上に子供扱いとか、そりゃ俺子供かもしんないけど、さらに面白くなかったり。