Episode:43
「キミがさっき言ったのと、似たような理由だった。裏切り者だそうだ」
誰も何も言えなかった。
「しかもその時いちばん嘆いてくれたのが、兄をみていた教授でね。その人の肌は白かった。いちばん怒ってくれたアパートの隣のおばさんは、肌が黒かった。いちばん心配してくれた友人は、肌が褐色だったよ」
教授の話は続く。
「肌が黒い兄とだけ、付き合う人も居た。逆に肌が黒くない私とだけ、付き合おうとする人も居た。同じ兄弟なのにだ」
悲痛な声。
「しかも、私の兄が黒いと知ると、離れる人も居た。逆に近づいてくる人も居た。意味がわからんよ」
教授にしてみれば、ほんとうにいたたまれなかったと思う。同じ兄弟で、周りもいろいろで、しかもお兄さんまで殺されてしまって……。
「なぁ、ジュマ君。こんな私は、何を信じてどこへ入ればいいんだ?」
「それは……」
答えられるわけがない。こんな問題、どんな賢人だってきっとムリだ。
「ジュマ君、キミの言うように白黒で分けたら、私の居場所はない。だからきっと、そんな簡単なものじゃないんだ」
「だが……」
何か言いかけたジュマさんに、教授が首を振る。
「ジュマ君、キミが大変な目に遭ったのは分かる。私の兄もそうだったからね。それにキミらのような子たちが、ひどい仕打ちを受けているのも知ってる。だがこれとそれとは分けないと、物事がおかしくなると思うよ」
ジュマさんは下を向いたまま、何も言わなかった。いろいろと、考えてるのかもしれない。
「大学へ行きたいのなら、私のところへ来るといい。推薦状を書くよ」
「え……!」
はじかれたように、ジュマさんが顔を上げた。
「もう一度、そこから始めないか? なに、途中まで行ってたんだから、残りを行けば済むよ」
「けど、俺は同胞の解放を!」
「そのためにも、私はもう一回学んで欲しいんだ。もっといろいろ背景を知って、そこから始めるべきだ」
教授が真っ直ぐ、ジュマさんの瞳を見つめる。
「でないと闇雲に動くばかりで、最後は立ち行かなくなる。そうなったら元通りどころか、みんなさらに落ちてしまうよ」
完全に黙ってしまったジュマさんを、優しい瞳で見ながら、教授が今度はいたずらっぽく言った。
「で、ジュマ君。私たちはイファさんのところへ、行く途中なんだが。案内でもしてくれないかね?」
「え? あ、はい、俺でよければ」
意外にもジュマさんが快諾する。
「そうか、助かるよ。さて、みんな行こうか」
ジュマさんを先に行かせて、すたすたと教授が歩き出す。
あたしたちも慌てて追いかけたけど……その背中は、とても寂しそうだった。