Episode:42
「変えるんだ。黒いからってこんな目に遭うとか、無くすんだ。こんな世界、冗談じゃねぇ!」
その叫びを、アーマル君が遮った。
「るっせぇ、アンタの恨みに、俺ら巻き込むんじゃねぇよ!」
よく似た外見の二人が、にらみ合う。
「どういう意味だ」
「そのまんまだっての! アンタが大変だったのは分かるけど、だからそこのお姉さんとか許せないって、要するに嫉妬じゃないか!」
ジュマさんが言葉を失った。
「そんなに大学行きたいんなら、行きゃいいだろ! ここエバスじゃなくて、ケンディクだぞ! それにアンタ、大人じゃないか。なら自分で行けるだろ!」
「きさま……」
怒気を越えて殺気を見せたジュマさんが、前へ出ようとした瞬間、その肩をぽんと白い手が叩く。
「まぁ待ちなさい、ジュマ君。やりあう前に、私の話も聞いてくれないか?」
教授が穏やかな声で、返事も待たずに続きを始めた。
「私の家系というのが、どうも代々好奇心旺盛でね。なかなかひとところに居つかないで、すぐ違う土地へ行くんだ」
「そんな話、あとでいいだろ」
ジュマさんがうるさそうに言う。
――分かるけど。
こんなときに、ここまで関係ない話を始められたら、ほとんどの人は怒るだろう。
けど教授、気にもしない。
「まぁまぁ。で、その先祖たちなんだが、ニルギアだのそのさらに西の大陸だの、ずいぶん放浪してね。挙句に行った先で素敵な女性を見つけては結婚するもんだから、うちはそうとう血が混ざり合ってるんだ」
話を聞いて、納得してしまった。教授のあの変人ぶりも、そういう家系だからに違いない。
「そんなわけでね、うちは兄弟でも髪や瞳はもちろん、肌の色まで違うんだよ」
「え……」
ここへ来て話が繋がる。
教授が悲しげな顔になった。
「実は私には、兄が居てね。キミたちみたいに黒い肌で、とても精悍で、しかも優秀な人だった。だから何十年も前だが、大学へ行ったよ。それもエバスで」
「――すげぇ」
アーマル君の言葉が、すべてを表してる。エバスなんかじゃ今だってまだ大変なのに、何十年も前にそういう肌の色で大学に行くなんて、ものすごいことだったはずだ。
「で? おおかた、行った先でひどい目に遭ったんだろ」
ジュマさんの言葉が皮肉の色を帯びてるのは、自分もそうだったからだろう。
教授も頷いた。
「ほらみろ、何も変わってないじゃないか」
勝ち誇ったような、ジュマさんの声。
けれど教授は、静かに続けた。
「遭ったさ。殺されてしまった。ただね、相手は同じような黒い肌だった」
まったく予想もしなかった言葉に、みんなが絶句する。