Episode:37
「あの、あたしはそんなのじゃ……」
「おぉ、なんと奥ゆかしい! 女神殿、どうか我に祝福を!」
言って教授が、飛び掛ってというか抱きついてというか、ともかく襲い掛かってくる。
「ゼーレ=シュラーフ!」
思わず全力で、眠りの魔法をかける。
「ひょぉ、これが女神の……」
そこまで言って、教授が倒れこんだ。トランス状態だからダメかと思ったけど、何とか眠ってくれたらしい。
それから急に心配になった。
何しろあたしの、全力の魔法だ。普通の人なら、最悪だと二度と目覚めないくらい威力がある。
「あの、教授……?」
恐る恐る近づいて、突付いてみる。
「ふみゃむぅ、麗しき女神……」
大丈夫そうだ。少なくとも寝言を言ってるから、昏睡ってことはない。
ほっと胸を撫で下ろしながら辺りを見回すと、連れてきたグループの人たちが、まだ痺れてるみたいで座り込んでた。
「あの、大丈夫ですか? 回復魔法、要りますか?」
「あの化け物を、一撃で……」
なんだか全く違うことを言われる。
「えっと、その……立てますか?」
「え?」
相手の人たちが、唖然とした顔になった。
「立てますか? 立てなかったら、あの、あたしで良ければ回復魔法……」
「え、あ、いや、立てる」
グループの人たちが、次々と立ち上がる。どうやら問題なさそうだ。
「えっと、教授が起きないうちに、逃げたほうが……」
「そ、そうだな」
さすがにもう、何かする気はなくなったらしい。みんな大人しく帰ろうとする。
「あんな化け物、鎖つけときゃいいのに」
「まったくだ」
口々にそんなことを言ってるのは、きっと怖かったからだろう。
と、1人がこっちを振り返った。
「あんた、白いくせになんで、俺らを助けた?」
「え、何でって……だって、助けるのって当たり前……」
自分でも何を言ってるのかよく分からない。ただ危ないと思った瞬間身体が動いてしまったし、だいいち目の前でこういうことがあったら、助けるのが普通じゃないだろうか?
なかなかすっきりした答えが出なくて、悩んでるあたしに、その人が笑った。
「ったく、危ねーお嬢ちゃんだな。まぁいいや、礼は言っとく」
あたしはお礼を言われた覚えがないのに、言ったことになったらしい。