Episode:35
「よし、止まれ」
そう言われたのは、ずいぶん歩いてからだった。たぶんシエラの本島横断より、歩いたと思う。
あまり綺麗じゃないビルの谷間の、ちょっとした空き地だ。
「さぁて、お前らどうしてやるか」
「別にやるのは構わんが、私に何かすると、後でジュマ君に酷い目に遭わされるぞ」
教授が平然と、煽るようなことを言う。
「ジュマ君は少々気が短いからな。だが友達思いだ」
「お前、なんでジュマさんの名前を……」
どうやらジュマさんというのは、この辺の有力者らしい。もしかするとロデスティオのダグさんとかみたいに、一帯を束ねてるのかもしれない。
「なんでと言われてもね。知ってるものは知ってるんだから仕方ない」
さすがに眉をひそめる。これじゃ完全に挑発で、事態が荒っぽくなる一方だ。
もちろんあたしはそれでも、何とかなるだろうけど、教授の身の保証が出来なくなる。
かといって、ここで忠告することも出来ないわけで……。
「どうせハッタリだろ。どっかで名前聞いて、イキがってるだけさ」
グループの1人が、ある意味もっともなことを言う。
「だいたい、ジュマさんにこんな白い知り合いとか、居るわけねーよ」
「それもそうだな」
話を聞きながら、なんでだろうと思う。白だの黒だの、そんなの日焼けでもしたらすぐ変わる。だいいち教授やあたしが髪を染めて肌を塗ったら、すぐ色なんて分からなくなるのに。
そんなことを考えているうちに、向こうがじり、と前へ出た。それぞれが思い思いの武器――たぶんそのはず――を出して、こっちに視線を向ける。
あたしも動けるよう、少しずつ体制を変えて、教授の前へ出て……何か怖気を感じて、思わず振り返った。
「きょほほほほほほっ、きょっほー!」
ワケの分からない叫び声に、一瞬動けなくなる。
――緑の、怪人。
さすがに混乱する頭を必死に静めて、状況を把握した。
この怪人、たぶん教授だ。たしかあの緑の服(?)は脱がずにコートを羽織ってたし、この仮面もさっき見た。だから間違いない。
けど、なんでこんなときに、こんな格好でこんな雄叫び……。
「なっ、なんだこいつっ!」
「来るなーっ!」
でももっと戸惑ったのは、連れてきたグループのほうだ。予想とかそんなものを遥かに超えて、異形の何かに出会ったみたいに怯えてる。
「ふほほほほ、ニルギアの誇り高きデワウ族、その屈強なる狩人と共に野を走り、聖なるロワメナ神の姿を許された私に、かかってくるがいい!」
教授は絶好調だ。