Episode:32
◇Rufeir
車窓を風が流れていく。
乗ってる路線は、さっきと同じだ。だから見える建物も同じだ。
ただメンバーは違って、あたしとアーマル君のほかに、教授とあのお姉さんが加わってる。
――今日、何回軌道バスに乗ったかな?
ふとそんなことを思った。行ったり来たり、きっと足したらけっこうな距離だ。
でも、ちょっとした旅行みたいで楽しい。遠出しなくてもこんなふうに楽しめるんだと、目から膜が取れた感じだ。
今度はイマドと来てみよう、と思ってるうちに、軌道バスが何度目かの減速をした。
「さて、次で降りるよ」
「はい」
さっきより少し手前の停留所で、教授に連れられて降りる。
「この先なんですか?」
「そうだよ。ただ、ちょっと歩くね」
どうやら東地区のけっこう奥のほうまで、行くみたいだ。
「そうだキミたち、私からは絶対離れないでくれ。いいね?」
「あ、はい……」
教授の真剣な顔に思わずうなずいてはみたものの、意味が分からない。
あたしの表情に気づいたんだろう、お姉さんが補足してくれた。
「ここね、余所者に厳しいの。でも教授は長年通ってるから、一緒に居れば大丈夫。変態だけど」
「最後は余計だな」
教授が憤然とする。
「男たるもの人間たるもの、美しいものには惹かれるのが道理!」
瞬間、ごつんといい音がして、また教授がしゃがみこんだ。
「それを変態って言うんです! さ、あなたたち、行こうか」
ほんの今「危ない」と言ったのに、お姉さん、さっさと行こうとする。
「こ、こらミラダ君、私を置いていくんじゃない!」
「ならもう、変態発言はしないでください」
この二人、けっこういいコンビかもしれない。
「やれやれ、近頃の若い子は凶暴でよくないな。いいかいお嬢ちゃん、ああいうふうになっちゃイカンぞ?」
「教授、もっかい殴りましょうか?」
ニコニコしながら言うお姉さん、ちょっと怖い。
「冗談だよ冗談、うん。さて行こう」
もう殴られるのは嫌なんだろう、今度は教授、先に立って歩き始めた。
「この辺は昔から、港で働く労働者の住まいでね」
教授はそう言うけど、港そのものとはだいぶ雰囲気が違う。どちらかというとシーモアたちの故郷の、ロデスティオのスラムみたいな感じだ。