Episode:30
「偉大なるドラバ=ンドクの――なんだって!」
素っ頓狂な声が上がる。リング部分の細かい文字は、とんでもない内容だったらしい。
「大変だ、ティティ王国の開祖じゃないか! ドラバ=ンドクの娘、エンマ=オルニテの子にこれを贈る。末永く栄えんことを。あぁ、だから豊穣神ネラマニの印なのか」
教授が独りで納得しまくりだ。
「えっと、その、それって……?」
「つまりだね、この指輪はティティ王国を作ったドラバ=ンドク王の末娘、エンマ=オルニテの子供――つまり王の孫に、贈られたものなんだよ」
かなり興奮してるらしくて、教授の声が上ずってる。
「――それ、ホントですか?」
でも俺は、イマイチ信じられなかったり。そりゃ本当ならいいなぁ、とは思うけど。
シエラに居ると現実的な連中ばっかのせいか、この手の夢はどっかへ置き忘れる感じだ。うっかり信じて騙されただの、殺されかかっただのって話ばっかり聞くから、どうにも用心深くなる。
「まぁそりゃ、細かく調べてみないと分からないが……本物の可能性は高いと思う」
教授のほうは、ちょっと自信ありげだ。
「ほら、この台座の裏を見てごらん?」
「この模様が、なんかあるんです?」
小さいくせにやたら複雑な模様が、裏には刻まれてる。今まで気づいちゃいたけど、これに意味があるなんて思ったことなかった。
「これは、ンドク王の印なんだ。他にも王や王子、王女は自分の印を持ってる。ただ一般には知られてなくて、王家直属の彫金士が一子相伝で伝えてた」
「へぇ……」
こんな小さな指輪から、一気に歴史のロマンの世界だ。
「滅多にこれは刻まれない。下賜品なんかには、よほどじゃないと付かないね。けど、この指輪にはその印がある」
「じゃぁ俺、もしかして……その子孫ですか?」
なんだかよく分かんないけど、マジでエラいことになってきた気がする。
「だろうね。直系かどうかは分からないが、どこかで繋がってるんだろう」
壮大な話だ。俺と遠く血の繋がる先に、そんな王が居るなんて。
「あと何か、分かりますか? 例えば、その王家の末裔が、他にどこにいるかとか」
「うーん、それはどうだろう」
教授がちょっと、考え込む。
「ティティ王家はとうに滅びてるし、ニルギアが混乱した際に各家系も滅茶苦茶になってるから、今辿るのは難しいんだよ。実際キミも、この指輪の由来さえ知らなかっただろう?」
たしかに言われてみればそうだ。