Episode:29
「だから、今も内戦なのか……」
「おおむねそんなところだ。ニルギアじゃ血縁をとても大切にするから、遠縁とはいえ血の繋がった人を売られた恨みは、生半可なものではなくてね。だから争いがいつ収まるか、見当も付かない状態なんだ」
なんだか、立っているのも辛くなる。
教科書で習って覚えた話の裏に、こんな深刻なものが隠されてるなんて、思いもしなかった。
「アーマル君……大丈夫?」
「あ、うん、ごめん……」
ワケが分からない。
イマドは出身がアヴァン大陸だし、ヴィオレイはワサールだ。ルーフェイアも肌とか髪の色から、たぶんその辺だろう。この教授だって、どう見てもアヴァン大陸かユリアス国の出身だ。
でも、こんなふうに普通に一緒にやれる。笑ったり泣いたり、俺とどこも違わない。
それなのに、武器売りつけて代わりに人を買う連中が居たり、肌の色が違うだけで襲ってくるヤツが居たり……。
「済まない、ちょっと話が深刻すぎたね。これを飲むといい」
教授が謝りながら、俺にカップを差し出した。
「ニルギアの薬茶だよ。飲むと気持ちが落ち着くし、元気が出る」
「すみません……」
受け取って、口をつける。不思議な香りが広がって、不意に涙がこぼれた。
ルーフェイアの手前、こんなみっともない真似したくなくて必死にこらえようとしたけど、こらえきれない。
「どうしたんだい?」
教授の優しい声に、やっと答える。
「これ、おふくろが……」
いつだったかも、どこだったかも思い出せないけど、この香りだけははっきりと覚えてる。カラカラに乾いた大地を歩き続けてたとき、おふくろが少しずつ、俺に飲ませてくれた。
「香りっていうのは、意外と深く記憶に残るからね」
教授に頭撫でられて、小さい子みたいで恥ずかしいのに、安心してる自分。分かってくれる人が、今ここに居てよかった。
「さ、飲んで。それとせっかくだからこの指輪、ちょっと詳しく見てみよう」
「……はい」
教授が拡大鏡出して、指輪を見始める。
「うん、ミラダ君の言うとおり、ニルギア西部のティティ文字だね。訛りから見て、ゴルンデノ平原南部だろう」
聞いたことのない単語ばっかりだ。
「あの、それで何て書いてあるんですか?」
やっと落ち着いてきて、訊くだけの余裕が出来る。
「うむ、今読むから待ってくれ。えーと……」
教授が指輪に顔を近づけた。