Episode:28
「それが、どうして?」
「北方……まぁ早い話がアヴァン大陸の各国なんだが、そこが武器を持ち込んだんだ」
教授が言うには、そうやって武器を持ち込んだ上で、対立を煽ったんだって言う。
「しかも巧妙なことに、ひとつの部族にだけ武器を売ってね。さらにその対価を、負けた部族の捕虜で受け取ったんだ」
「え……?」
予想を超えた話に、頭が付いていかない。
「そうだね、ちょっと難しいかな」
教授が優しい顔になって、分かりやすく説明し始める。この辺はやっぱり「先生」だ。
「ニルギアの法が生きてたのは、どこも同じような軍事力だったからなんだ。仮に破ったら、周囲の部族に連合されて二度と勝てなくなるのもあって、みんな守ってた。ここまでは分かるかな?」
「あ、はい」
戦争は基本的に数で決まるから、周り中が敵になったら勝てない。だからヘンなちょっかい、出さなかったってことだ。
これは今でもよくある話だから、分かる。
「じゃぁ、質問だ。その状態で1つの部族だけが、どこにも負けないような圧倒的な軍事力を持ったら?」
「あ……!」
やっと意味が分かる。
本当は戦いを仕掛けたいのに戦力が足りなくて出来ない国が、圧倒的な軍事力を持ったら。
「やりたい放題、ってことか……」
「そのとおり」
教授が沈痛な表情で頷いた。
「武器や魔法を得た野心家が、次々と周囲と戦って、土地と捕虜を得る。しかも捕虜は遠い国へ売ってしまうから、戻ってくることもなくて、土地が取り放題だ」
その野心家が誰かは知らないけど、それこそ濡れ手で粟だったろう。武器は捕虜と交換で手に入るし、土地も一緒に手に入るんじゃ、強くなる一方だ。
「近隣の部族が連合して襲ってきても、魔法や武器がなくては、勝ち目はないしね」
「ですよね……」
今だってルーフェイアみたいな優秀な兵士が、戦局をひっくり返すことがある。ましてや相手が昔ながらの槍と弓だけじゃ、それこそただの虐殺だろう。
「似たようなことが北のいろんな国の手で、全土で引き起こされてね。あっという間にニルギアは、滅茶苦茶になってしまったんだよ」
聞いてるだけで、息苦しくなる。
昔々から変わらず平和にやってきた生活が、そんな形で壊されるなんて。考え付いた連中は、魔獣以下だ。