Episode:27
教授が出来のいい生徒を見つけたみたいに、ニコニコしながら答えた。
「それこそが、ニルギアの伝統法のいいところなんだ。やっても意味がない、それこそが狙いなんだよ」
教授は得意気だけど、俺らは首をかしげるばっかだ。
「つまりだ。負ければ奴隷だし、土地や蓄えを取られる。だが勝っても得をするのはせいぜい数年で、下手をすれば返すときに損をする。ここまでは分かるね?」
「はい……」
説明そのものは分かったけど、なんだか全体像が見えてこない。
そんな俺たちに、教授が意味ありげな微笑を浮かべながら言った。
「要するにこれは、『戦わせない』ための法なんだよ。すごいだろう?」
「あ……!」
思わず声を上げる。これ考えた人、マジですごい。
「勝っても得をしない戦いなんて、しても意味がないだろう? だからニルギアでは別の方法、族長どうしの話し合いや、荒野での決闘みたいなもので争いを片付けてたんだ」
きっと、平和なところだったんだと思う。広がる草原でみんな、のんびり狩りや畑仕事をしながら、暮らしてたんだろう。
「あぁ、先人の智恵に守られた、麗しのニルギアよ! 恵みの大地よ!」
教授が両手を挙げて天を仰ぐ。
なんでこの教授が、こんなにニルギアが好きなのかは分からない。けど、悪い気はしなかった。
「豊かなところなんだ、ニルギアは。キミもぜひ、いつか行くといい」
「はい!」
写真で見ただけの、どこまでも続く大平原。あそこへ行って見たいと思う。
「あの……でも今は、内戦なんかが、ひどかったかと……」
ルーフェイアの声が、俺の夢想を破った。彼女は戦場あがりなだけあって、現実派みたいだ。
「そういう法が生きてたら、内戦……しなくないですか?」
「ほんとにお嬢ちゃんは鋭いねぇ」
感心する教授に、当たり前だろと内心突っ込む。なんせシエラの本校の、それも学年主席だ。そこらの勉強できるヤツ集めた学校にだって、引けは取らない。
まぁ俺が自慢に思ったって、しょうがないんだけど……。
「ニルギアはずっとこの法に守られて、均衡を保ってきたんだが……それが150年ほど前に、破れたんだ」
「えっとそれ、どういうことですか?」
教授にとっては当たり前の知識なんだろうけど、詳しいこと知らない俺には意味不明だ。
「ニルギアは平和で豊かだったから、あまり武器や魔法が発展しなかったんだ。昔のままで、十分暮らせたからね」
なんとなく分かる気はした。人間ってホントに困らないと、必死にならない。
それに技術が発展するのは、いつだって戦争の時だって言う。きっと死にたくないから、それこそ必死になるんだろう。