Episode:26
そんな俺の様子に、教授は頷いた。
「知らないなら、それでいいのかもしれんな……」
「だから、何がです?」
なんかちょっとイラっと来て、声がトゲっぽくなる。
「あぁすまん、こんな言われ方をされたら、誰だって腹が立つな」
また頷いて、教授が俺に訊いた。
「キミはニルギアのことを知っているかい?」
「えっと……」
なんだか急に授業風になって、ちょっと緊張する。考えてみたら俺、ニルギアの血を引いてるらしいのに、ほとんど知らなかった。
「たしか、内戦が多くて……貧しい、って」
「その通り。ちゃんと知ってるね、いいことだ」
微妙な褒め方をしたあと、教授が続ける。
「ニルギアでは戦って勝つと、相手を奴隷にする習慣があってね」
出てきた言葉に、自分でも顔が引きつるのが分かった。そんなこと、俺の故郷でやってるなんて。
俺の表情に気づいたらしくて、教授が慌てて言った。
「あぁ、キミが想像してるのとは少し違う。きちんと取り決めが合って、対価を払えば無罪放免だし、期間も数年だよ。まぁ、賠償みたいなもんだ」
「そうなんですか……」
口ではそう言ったものの、すんなりは納得出来ない。死んだ親が犯罪者だって言われたような、イヤな感じだ。
と、そこまで黙ってたルーフェイアが、口を開いた。
「あの、そのやり方だと……期日が過ぎたあと、困りませんか?」
何言ってるんだかイマイチ意味がつかめなくて、ルーフェイアの顔を見る。教授も同じだったみたいで、彼女に問いかけた。
「困る、というと?」
「えっと、その……仮に無罪放免でも、土地が……だから土地とか、もうないですよね? たいてい、取られますから」
「あぁ、そういう意味か。さすがシエラの本校だけあるな、鋭いもんだ」
教授が感心する。
「お嬢ちゃんの言うとおり、戦って負けたら土地は取られる。が、これも一時期だ。奴隷でなくなれば、自分の手に戻るんだよ。それも、元の状態に戻してもらってね」
「え、じゃぁ、何のために争いを……?」
俺もルーフェイアと同じことを思った。
だいたいが戦争だのってのは、自分が権力握りたいとか、領土が欲しいとか、まぁそんなとこが原因だと思う。
なのに取った土地はあとで返して、奴隷にしたのも居なくなっちゃうんじゃ、正直やる意味がない。