Episode:20
「その、ホントかどうか知りませんけど、持ち主が次々に衰弱死したとかで……」
「知ってます」
なんかもう、ワケ分かんなかった。少年兵あがりでシエラに居て、なのにこんな金持ってて、しかもワケありの短剣買いに来るとか、ふつうじゃない。
けどルーフェイアのほうは、当たり前って表情だ。
「本来、外へ出したらいけないものなんです。なのに手違いで、流出してしまって……。お幾らですか?」
そこまで言ってから、ルーフェイアが微笑んだ。
「そちらの言い値で、構いません」
華やかで邪気のない、なのに何故か、ぞっとするような笑顔。自分の立場が圧倒的に上で相手が逆らうなんて考えてない、逆らったってどうにでもなる、そんな自信が透けて見えた。
思い出す。ルーフェイアの居ないとこで、大人しくて可愛い、でもイザって時には強く出られなそうで心配だってヴィオレイと話してたとき、イマドが言った。たしか「アイツはそんなにヤワじゃねーよ」とか、そんなふうだった。
そのときはバトルが強いのを言ってんだろうと思ってたけど、違う。イマドはいつも一緒にいるから、ルーフェイアのこういう面も知ってたんだろう。
――なんか、凹む。
これじゃ俺、ルーフェイアのこと何も知らないで騒いでた、ただの道化師だろ……。
こっちでがっくり来てる間に、商談はまとまったっぽかった。
「じゃぁ、これを……手付けで。不足はこちらに請求してください。誰かが値を吊り上げたら、その額に上乗せします」
「いえ、とんでもない! 私も早く手放したかったですから、この額で十分ですよ」
どこまでホントか分かんない愛想のいい顔で、オヤジが言う。
「それより、また何かあったら言って下さい。世界中駆け回っても探してきますから」
商売人だから仕方ないのかもだけど、オヤジちゃっかりしすぎだろ。
と、その商売人の目が俺に注がれた。
「おや君、珍しいものを付けてるね。見せてくれないか?」
「へ?」
何のことか分かんなくて、思わず辺りをきょろきょろする。
オヤジが笑いながら指差した。
「違う違う、ほらその君のネックレスの先の、指輪だよ。指輪だろ?」
「あ、これ……」
首から外して手渡すと、オヤジが拡大鏡取り出して見始めた。
「あーやっぱり。古いものだね。それに珍しい。どこで手に入れたんだい?」
「さぁ……? うんとちっちゃい頃から、持ってるんで。死んだ親父かおふくろが、持たせてくれたんだと思うんですけど」
この辺の記憶、俺はかなり曖昧だ。
いちばん古い記憶は誰かと延々と、乾いた大地を歩いてたこと。喉がひりひりしてお腹が空いて、辛かったの覚えてる。そのとき一緒に居てよく抱いてくれた女の人が、たぶんおふくろだろう。