Episode:16
「そりゃ、配達屋だからね。でもちょっと、見当違いのほうへ来ちゃったね」
言っておじさん、今度はぐびぐびとジュースを飲む。縦横に大きいだけあって、食べるほうも相当だ。
一気に飲んで息をついて、配達屋のおじさんは続けた。
「その店、行政区じゃなくて、シエラの分校のほうだよ」
「え……」
なんだかあたしたち、思いっきり勘違いしてたみたいだ。
「港から、軌道バスで2駅って聞いたんですけど……」
「うん、それで間違ってない。ただ4番で、降りてからけっこう歩くんだよ」
何のことかよく分からなくてアーマル君の顔を見ると、説明してくれた。
「一応シエラの分校のほうにも、軌道バス通ってるんだよ。港からじゃ歩いたほうが早いから、俺ら使わないけど」
「そうなんだ……」
シエラの分校は南門から出れば、すぐ港だ。ただ敷地がけっこう広いから、反対の北側にでも軌道バスの停留所があるんだろう。
配達屋のおじさんが、最後の一口を口に押し込んでから、ペンと紙を取り出した。
「ここからだと、18番の軌道バスに乗って7つ目がいいかな。その停留所からだと、いくらも歩かないし」
さらさらと地図が描かれていく。
「さ、これでいい。もし分からなくなったら、降りた辺りで『ナザールの古道具屋』って聞けばいいよ」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、配達屋のおじさんが下を向いて頭を掻いた。
「いやぁ、お礼なんて。仕事柄、こういうのは詳しいしね」
巨体に似合わず、恥ずかしがりみたいだ。
「はは、相変わらずアンタは美少女に弱いな。すぐこれだ」
「言わないでくれよ……」
配達屋のおじさん、こっちを時々見ながら、両手で顔を隠して首を振っている。よっぽど言われたくないんだろう。
――けど、美少女って?
あたしが首を傾げてると、アーマル君が立ち上がった。
「ごちそうさまでした、美味しかったです」
彼の言葉を聞きながら、あたしも慌てて立ち上がる。
「それは良かった。この辺来たらまた寄っておくれ」
「はい」
マスターに送られて、店を出る。
最後に振り向くと、配達屋のおじさんが次のお皿を食べながら手を振っていて、あたしも振り返した。
「18番の軌道バスは、ここをまっすぐ行ったところだよ」
マスターが、来たのとは反対を指差す。
「ありがとうございます」
お礼を言って、あたしたちは歩き出した。