Episode:15
「あの、でも、お金とか……」
アーマル君の言葉に、バーのマスターが笑い出した。
「子供からお金なんて取らないよ。それより、食べ盛りだからお腹すいただろう? 余り物のあり合わせだけど、食べていきなさい」
「ありがとうございます!」
言うなりアーマル君が両手を伸ばして……途中で止まる。
「ごめん」
謝って彼、半分こっちに分けてくれた。
――でもちょっと、多いかな?
どうもあたしは、たくさん食べるのは苦手だった。先輩なんかから「食べたほうがいい」って言われるのだけど、どうしても入らない。
せっかく分けてくれたのに、これじゃ残すだけだろう。
「えっと、あのね……ごめん、こんなにムリ……」
申し訳なくてやっとそれだけ言って、ひとつ手に取った。
「え? あ、ごめん、そうだった」
でもアーマル君、いやな顔ひとつしないどころか、謝ってくれる。
「もともとあんま、食べないもんな。ゴメン」
言って彼、今度は3割くらいをこっちにくれた。
「ごめんね、ありがとう」
このくらいなら、あたしでも食べられる。
そんなことをやっていると、ドアがノックされた。
「おや、来たかな?」
マスターが手を止めて――今度は何を作ってたんだろう――出て行くと、大きな声での挨拶が聞こえて、配達屋の制服を着た人が入ってきた。
「仕事中にすまないね」
「早めの昼飯でも、食べたことにするさ」
茶色の瞳が優しそうな、丸顔のおじさんだ。身体も顔と同じように丸くて、しかも縦横に大きい。横幅なんてあたしの4倍くらいあって、狭いドアだとつっかえてしまいそうだった。
「そう言うと思ってね、簡単なものだが用意しておいたよ」
「こりゃありがたい!」
配達屋のおじさんが早速手を伸ばす。
「今朝は子供にパンを食べられてしまってね、お腹が空いてたんだよ」
生存競争が激しいのは、どこも同じみたいだ。
「で、なんだい、聞きたいことってのは」
猛烈な勢いで食べながら、配達屋のおじさんが訊いた。
あたしが慌ててメモを出すと、マスターが言い添える。
「この子達が、この住所にあるっていう古物商を探しててね。ただ旧住所だから、よく分からないんだよ」
「あぁ、ここなら知ってるよ。たまに配達に行くからね」
「ほんとですか?」
昨日からあんなに苦労したのに、こんなに簡単に分かるなんて思わなかった。




