Episode:12
思ってもなかった状況に二人して黙ってると、また相手が口を開いた。
「頭の悪いヤツだな」
小馬鹿にしたような口調。
「お前みたいな色の黒いヤツが、一丁前の顔して歩くなって言ってるんだよ」
思わずアーマル君と顔を見合わせる。まさかこんな理由で言いがかりをつけられるなんて、思ってもみなかった。
(……行こう)
(うん)
関わってもロクなことはなさそうだし、ここはさっさと撤収するのがいいだろう。
でも逃げ出す前に、二人して取り囲まれた。
ちょっと小太りなのと、背の高いのと、縦横逞しいの。年は30代くらいだろうか? ただ3人とも、難しいことを考えるのは苦手そうだった。
男のひとり、小太りなのがあたしに視線を向ける。
「あんたもあんただ。なんでこんなヤツと一緒にいる」
「だって、友達だから……」
あたしの答えに、男たちが笑い出した。
「こんなヤツと『トモダチ』なのか!」
なぜ笑うのかも、何を言われているかもまったく分からない。
そんなあたしの様子に気づいたんだろう、今度は逞しいのが、顔を近づけて話しかけてきた。
――すごく、イヤかも。
口臭がひどいし、にやけた表情も申し訳ないけど気持ち悪い。
「いいか、お嬢ちゃん。こいつらみたいのはな、喋るケダモノなんだ」
「……?」
余計に意味が分からない。
あたしの思いを知ってか知らずか、男は続ける。
「まぁまだ子供だから、知らないのも仕方ないが。人ってのは色が黒けりゃ黒いほど、デキが悪いんだよ」
瞬間、あたしは相手を引っ叩いていた。
「そんなの関係ないでしょう!」
不様に尻餅をついて、頬を押さえてこっちを見る、見かけだけ逞しい男を睨み返す。
「彼はあなたたちより、よっぽどちゃんとしてます!」
要するにこの男たちは、見た目で人を決めつけているのだ。
自分たちのほうがよっぽどどうかしてるのに、そんなのは棚に上げて、アーマル君を見下している。
「なんて子だ……」
「この色つきに、騙されてんだな」
男たちから、殺気――たぶん本人たちはそのつもり――が立ちのぼった。
尻餅をついていた逞しいのも立ち上がる。