Episode:10
軌道バスは要するに、路面を走る小さな列車だ。道路に専用の軌道が敷かれていて、そこを走る。
車と違って好きなところへは行けないけれど、渋滞も交通規制もないし、路線も30くらいあって、行政区と商業区じゃ文字通り「市民の足」だった。
ちなみに港区にこれがないのは、邪魔だったからだそうだ。人より荷物が行き交う港周辺は、馬車なんかのほうが使い勝手がよかったらしい。で、行き渡らないままになってしまったんだという。
コインを買って乗り込むと、中は空いていた。世間は平日だからだろう。
軌道バスが動き出して、窓から見える町並みが少しずつ変わっていく。雑多な賑わいが、華やかな賑わいへと移っていく。
石造りの、でもアヴァンとはまた違う、柔らかな曲線を持つ建物。広めに取った、見通しのいい道路。
その両脇を小さな軽食スタンドや、窓辺の花が彩っている。
「二駅だっけか?」
急に聞かれて慌てる。今日はこんなことばっかりだ。
「えっと、うん、たしかそう……」
自分でも呆れるくらい曖昧な答えだけど、アーマル君は怒らなかった。この辺はイマドに似てる。
「中央駅のそばか。店多そうだな」
どうも探すの、大変そうだ。
でもどうしても今日ってわけじゃないし、たまにはこんなふうに、探索で歩くのもいいだろう。
軌道バスが一つ目の停留所を過ぎた辺りで、大きな建物が見えてくる。
「あれ、中央駅?」
「ん? 初めてか?」
問いにあたしはうなずいた。
長距離列車は、終着駅が港のほうだ。だから学院とどこかを行き来するときは、港の駅から乗ってしまって、行政区の中央駅は素通りしてしまう。
そんなわけで、あたしは外からこの駅を見たことがなかった。
「降りよう」
「あ、うん」
軌道バスが止まるのを待って、急いで降りる。
「大きい……」
見上げた駅の大きさに圧倒される。アヴァンの駅も大きかったけど、それに引けをとらないだろう。
「何番線まで、あるのかな……」
思わず言うと、アーマル君が笑い出した。何かあたし、妙なことを言ったらしい。
「えっと、ごめん……」
「いや、俺こそ。てかルーフェイア、面白いな」
悪い意味はなさそうだけど、なんか微妙な言われ方だ。
だけど考えてみても何が微妙か分からなくて、結局諦めた。代わりに、今いちばんの問題を聞いてみる。