後日談1:ルイス様とピンク髪のデートを我慢できた理由(侯爵令嬢ルシア視点)
ある昼下がり、優雅にお茶を飲んでいると、メイドのアンが思い出したように言った。
「お嬢様、そういえばよく我慢できましたね」
「あら、何をかしら?」
「殿下とピンク髪の令嬢とのデートですよ。いくら婚約破棄を叫んでもらうとはいえ、お嬢様がよく我慢できましたね。私のイメージでは、他の女の手を握らせるのも嫌がりそうですのに」
うんうん、と一人アンが両腕を組んで頷いていた。
そういえば、そんなこともあったわね。
私はそのことを思い出して、顔がにやけてしまった。
「えっ?お嬢様????」
「ふふふ」
にやけ顔が止まらないわ。
「お嬢様が・・・お嬢様がNTRが好きだったなんて!!!」
ヨヨヨ、という擬音がしそうな感じに、アンが膝から崩れ落ちた。
「誰がですか!」なんて失礼なことを言うのだろうか。
「もしルイス様がNTRたら、私は世界を滅ぼすわ」
パリン、想像だけで、カップが割れてしまった。
「よかったです。お嬢様がそこまで変態じゃなくて。安心しました」
安心して息を吐き出すアンを見ていた私だが、ん?と気になった。
「アン?そこまで変態じゃない?ってことは、私のことを変態ではあると思っていたってこと?どうやら私たち話し合いが必要なようね」ゴゴゴと魔力が溢れるのがわかる。
「お嬢様、ご自覚がなかったのですね。私は悲しいです」アンはハンカチを取り出して涙を拭くまねをした。普通の人なら、魔力の圧力で怯えたりするが、私とアンの仲だとこんなものである。
「私、あなたのご主人なんだけど」私がため息をつくと
「はい、こんなお嬢様にお支えできるのは私くらいですよ」なぜかアンが胸を張った。
そして、二人で顔を見合わせて、ふふふ、と笑ったのだった。
「あ、それでどう言うことなんですか?NTRじゃないとすると」アンが忘れていたと言う顔で尋ねてきた。
私は、箱から指輪を取り出すと、アンに投げた。
アンは指輪をキャッチすると、危険物を扱うように、慎重に観察し始めた。
「これは?」
「婚約指輪を作る前に作成した試作品よ。つけてご覧なさい」
「嫌な予感しかしないのですが・・・」
そう言ってアンは、指輪をつけた。
私は、アンの方に、手を差し出した。
「それで私の手を握ってご覧なさい」
アンは私の方に歩いてくると、私の手を握った。
「あれ?私お嬢様の手を握っていますよね。なんの感触もありませんが・・・」
アンは、私の手を握ったり、離したりして不思議そうな顔をしているので、
私は、箱からもう一つの指輪を取り出すと、器用に片手で、アンに差し出したのと別の手に指輪をはめた。
「あ、急にお嬢様の手の感覚が現れました。どう言うことですか?」
私は、指輪をはめた手の近くに氷を作り出すと、氷をつかんだ
「え、冷たい」アンは急につかんだ手が冷たくなったので驚いた顔をしていた。
「ふふふ、これが理由よ。この指輪は誰かの手を握ろうとすると、手の表面にちょっとした空間の裂け目を作って、指輪のペアの相手に接触するようになっているの。表面だけだから外から見るとわからないの。
つまり、ルイス様はピンク髪の手を握っていたつもりで、実は私の手を握っていたってことなの。ちなみに、握ろうとした相手の手に合わせて、大きさとか右左の変換とかも入れてあるわ。えっへん」
私がアンを見ると、アンは目を見開いて固まっていた。私はそれを見て満足した。
「うんうん、分かるわ。あまりにもすごい人を見ると声も出ないのよね」
アンは、しばらく硬直し続けていたが、ハッと我にかえるといった。
「え、え、えええええええ!この指輪が、次元を!?」
「ふふふ、すごいでしょ?」
「お嬢様って本当に天才ですよね。変態行為にしか使いませんけど・・・」
「もう、アン!私いつも世のため人のためのことを考えているのよ?」
アンを指さして、説教を始めようとすると、アンがぽつりといった
「盗撮用魔法陣、匂い転送器・・・」
「ふう、人ぎきの悪いことを言わないで欲しいわね」
「本当のことですが」
「だから嘘を言わないで、ではなくて人ぎきの悪いことをといったのよ。ふふん」
「自覚があったのですね」
「まあ、というわけで、ルイス様がピンク髪とデートして手をつなぐと、私がルイス様と手を繋ぐことができるので、放置してあげたというわけなの」
「それならご自分で直接手を繋げばよろしいのでは?」アンはジト目をしていた。
私は両腕を広げて、わかっていないわねポーズを取るといった。
「そんなことをしたら恥ずかしすぎて死んじゃうじゃない。ルイス様の近くに行くだけで心臓が破裂しそうなのよ?きゃっ」
考えただけで真っ赤になってしまった私を見つめていたアンだったが、少し考えるそぶりを見せた後いった。
「お嬢様・・・」
「何かしら」
「お嬢様が、それで満足するとは思えないのですが、他に何に使っていました?」
「ナ、ナンノコトカシラ」
「お嬢様の性格上、手を握るだけで満足するとは思えないのですよね」
アンはじーっと私を見つめていたが、それだけでは威厳が足りないと感じたのか、両腕を組んだ。
「あれ?私の腕こんなに熱くなってしましたっけ?」
アンはドキドキで真っ赤になっている私の腕と自分の腕とに視線を往復させていた。
そしておもむろに自分で自分の腕をつねった。
「いたっ!」しまった思わず声に出してしまった、と思いアンを見ると、
「いたっ・・・?」
アンはこちらをジト目で見つめていた。
「キノセイダヨ。イタクナイヨ」
じー
私にとっては、永遠にも思えるような時間が過ぎた後、しばらくすると諦めたのかアンは目を逸らした。
「ほどほどになさってくださいね」
「はーい。さて次はどんなものを用意しようかしら」
アンはため息をつくと掃除に戻ったのだった。
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ルイス王の伝記には、ご自身の体がスベスベなのを自慢に思っていたと言う記述が残されている。
皆がルシア王妃にそのことを尋ねると、ふふふ、と満足そうに笑っていたという。
へ、変態度が増してしまった気がするけど、きっと気のせい・・・・。