そんな事態に備えたくない
相変わらず朝の吐き気。食べきれなかった朝食の後、点滴に吐き気止めと抗がん剤を入れられる。採血の結果、白血球の減りが著しいとかで、グランという注射も打たれた。
後で先生が来て、俺に告げた。
「現時点でこの白血球量だと、食事量の問題ではなく、免疫機能が非常に落ちているので外泊は無理です」
「そうですか……」
抗がん剤が終わるまでは無理なんだろうな……。
「グランは今後も打っていきますが、それでもかなりギリギリということは心に留めておいてくださいね」
「はい……」
仕方がない。病院での生活を続けるしかない。千歳が毎日来てくれるし、それを頼りにやっていくしかない。
午後、千歳が来てくれた。
『看護師さんがさ、ここの売店品揃えいいって。ちょっと行ってみないか?』
「じゃあ、一緒に行こうか」
そういうわけで地下階の売店に行ったのだが、大きめのコンビニそのものだったのでびっくりした。おにぎりにサンドイッチ、パンにサラダ、レジ横にはフライドチキンに肉まん。お菓子、日用品、お風呂用品、化粧品、雑誌、充電器、タオルに下着にパジャマ、本当に何でもある!
『えー、これだけで暮らせないか!?』
「すごいな……病院の職員さんも使うからだろうけど……」
売店を巡って病室に戻る。千歳が長田さんと太田さんに『今売店行ってきたんですけど、すごいですね! 何でもある!』と話しかけたら、二人は頷いた。
「あそこで入院用具は全部揃うよ、金さえあれば」
『そうなんです!?』
「すごいですね……」
そんなこんなを話していたら、面会時間はすぐに終わってしまい、俺は千歳を見送った。病室に戻ったら、太田さんに「そうだ、和泉さん」と声をかけられた。
「売店なんでもあるからさ、すぐ必要になると思うから、医療用帽子買っといたほうがいいよ」
医療用帽子、それは抗がん剤などで髪がなくなった頭を保護する布の帽子。俺は、髪が抜けた時に備えておけと言われたのが分かった。
「わかりました、すぐ買いに行きます」
そう、髪の毛がなくなる。髪以外の毛も、多分なくなる。千歳がショックを受けた、全ハゲの姿になってしまう。
千歳になるべくショックを与えたくないから、そんなに抜けないでほしいんだけど……これも無駄な祈りかな。




