最初はまだまだわからない
予想外だったのは、点滴の副作用でトイレが近くなることだった。
1クール目、最初の10日間は続けて点滴をする。だが、抗がん剤を打つのにそんなに時間はかからない。じゃあ、あとの点滴は何に使うかと言うと、抗がん剤を体外に押し流すための生理食塩水と利尿剤を打つのに使う。
なんでせっかく入れた抗がん剤を押し流すのかと言うと、抗がん剤は劇薬だかららしい。必要以上に身体にとどまると害になるので、入れた翌日はすぐ排出しなければいけないとのことだった。
抗がん剤っておしっこで出るものなんだ……。今はまだ利尿剤入ってないけど、これじゃ明日はどうなるんだ……。
そんなこんなで夕飯の時間。病院食に箸をつけて、食べきれなくて悩んでいると千歳が来た。
『よう、大丈夫か?』
「今のところ大丈夫」
千歳は心配そうに言った。
『今日から抗がん剤だよな? なんかきつくないか?』
「まだそういうのはないよ」
『でも飯残してるからさ。それとも、まずいのか?』
「いや、意外とおいしい。でも量多いし、あと正直あんまり食欲なくて、全部はとても食べられない」
千歳は俺が食べ残した煮物を見た。
『ワシ残り食おうか?』
「あっそれダメ、看護師さんに怒られる」
看護師さんに言われたことを思い出す。
「なんかさ、病院では、患者がどれだけ食べれたかの情報も必要なんだって。だから残っちゃっても、お見舞いの人に食べてもらったらダメだって」
『へえー、そうなんだ』
それから、お互いこれからの予定を確認し合う。千歳の組み紐の仕事はまだ続くそうだ。
『でも、できるだけ毎日来るからな』
「ありがとう、でも無理しないでね」
それからしばらくおしゃべりして、面会時間は終わってしまった。千歳は『じゃあまた明日な!』と俺に声をかけ、同じ病室の長田さんと太田さんにあいさつして帰っていった。
俺は長田さんに聞かれた。
「昨日も来てたね、あの子奥さん?」
「いえ」
太田さんが俺に聞く。
「じゃあ彼女?」
「いや、その……。同居人です、恋愛関係にはありません」
「ええ!?」
「ええ!?」
二人はものすごく驚いた。
「あんなに尽くしてくれてるのに!?」
「何もないの!? あんなきれいな子といっしょに住んでて!?」
俺は苦笑した。
「相手は色恋にさっぱり興味ないので」
すると、太田さんはいたずらっぽい顔をした。
「兄ちゃんの方はどうなの」
俺の方は……俺の方はとても言えないが!
俺は、曖昧に笑って誤魔化すしかできなかった。




