番外編 金谷千歳と本当につらい人
和泉は会社の人と仕事の引き継ぎ中。ワシは心配してLINEくれた緑さんに、べそべそしながら返事していた。
『それで、和泉手術だけで終わらなくて、抗がん剤もしなくちゃいけなくて、精子保存しとかないと子供作れなくなって、それでワシは悲しくていっぱい泣いちゃって』
「ちょっと待って、それで和泉さんに慰められたりしてる?」
『うん、すごく慰めてくれる、大丈夫だよって』
「今日ちょっと半休とるわ、千歳ちゃん、午後会える?」
『え、うん、午後の早い時間なら』
それで、緑さんはうちに車で来て、「和泉さん! ちょっと千歳ちゃんを借ります!」と風のようにワシを連れて行った。それで、いつもの個室のある喫茶店に行ったんだけど、緑さんはなんか怒ってる顔だった。
「千歳ちゃん。和泉さんが大変でショックなのは分かるけど、和泉さんにだけは慰められちゃダメよ」
『ええ!?』
「病気になって、一番ショックで苦しいのは和泉さんなのよ。その和泉さんに千歳ちゃんが慰められてどうするの。千歳ちゃんこそドンと構えてなきゃだめよ。何があってもちゃんと支えるって言ってあげられるのは、千歳ちゃんだけなんだからね」
『そ、そうなのか?』
「人を慰めるより人に慰められたいだろう、がん経験者としてはそう思います」
そう言えばそうだった! 緑さん、子宮のがんをやった人だった!
ワシは小さくなった。
『ごめんなさい……』
「いいの、私の前ではいくら泣いてもいいけどね? 和泉さんの前では泣いちゃダメよ? 千歳ちゃんが支える側でいるのよ?」
『うん……』
緑さんの車で送られて帰って。ワシは、和泉にどう切り出せばいいかわからなかったけど、和泉は夕飯の前には仕事終わったから、ワシは夕飯の時に頑張って言った。
『あの、いっぱい慰めさせてごめんな。ワシ、もうお前の前で泣かないから』
「え、どうしたの?」
『緑さんに怒られたんだ。がんになって一番つらいのはお前なのに、ワシがお前に慰められるようなことはやめろって。ワシこそお前の支えにならなきゃいけないって』
「そうだったの!?」
『だからさ、ワシ頑張るからさ、お前は何も心配しなくていいからな』
和泉は目を丸くしていたけど、やがて表情を和らげた。
「ありがとう、じゃあ、これからよろしくね」




