お前はなんにも悪くない
千歳と家に帰って一息ついて。来週半ばからまた入院とは言え、家の暮らしに必要な品物は荷物から出さなきゃいけない。下着とか買い足したほうがいいのかなと思いつつ荷物をほぐす。
それから、言いにくいことではあったが萌木さんに連絡した。
「最低でも3ヶ月!?」
「経過が悪かったら、もっとかかるそうです……申し訳ありません」
「いや、謝ることじゃないから、病気なんだから! 久慈と北明にも伝えるね、休職手続きします。引き継ぎ資料作っといてくれる?俺と嬉野さんで巻き取るから。時間かかるのは分かったから、待ってるから絶対治してよね」
「ありがとうございます、本当にありがとうございます」
狭山さんとおっくんにも現状を連絡した。
「そういうわけですみません、入院中は漢方資料当たれないんで、唐和開港綺譚の監修するとしてもかなり浅くなります」
狭山さんから即返事が来た。
「和泉さんが退院するまで待ちます」
おっくんからも返事が来た。
「それでいいと思います」
「いいの!?」
おっくんからすぐ返事が来た。
「唐和の主人公のモデルに何かあったら狭山さん最悪書けなくなるよ!? それに比べたら延期なんて安い安い!」
「そういうことなんで、和泉さん、ちゃんと治してください」
俺はじーんときた。
「わかりました、本当にありがとうございます」
俺のファンにも転移を報告した。
[そうか、気を落とさないでくれ。また同じ病院に入院だろうか?]
「うん」
[その病院の警備システムはガチガチにチェックしておく。治療に専念してほしい]
「別にそんな危ないこと起きないと思うけど……でも、ありがとう」
父親にも転移を連絡し、3カ月はかかることを告げた。
「大丈夫なのか?」
「俺は現代医学を信じてるから。お母さんのこと抑えといてね」
さてと。今必要なのは、会社の仕事の引き継ぎ資料……今のうちに作るか。
パソコンに向かっていると、千歳がやってきた。
『こんなときに仕事か?』
「こんな時だからだよ、長く休むから引き継ぎちゃんとやらなきゃいけない」
しばらく作業して、一段落。伸びをすると、隣でボンと音がして、黒い一反木綿の千歳が抱きついてきた。
「ど、どしたの?」
『お前、なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだろうな……』
「それはその、大変ではあるけど……」
千歳は俺にくっついて、涙声で話しだした。
『お前はさ、ワシと違ってなんにも悪いことしてないのに、こんな目に遭ってさ……かわいそうに……』
ああっ、やっぱり泣かせてしまった!
俺はあわてて千歳の背中をなでた。
「俺はちゃんと治して長生きしたいから。髪抜けてもそんなにびっくりしないで」
『でも、でも……』
「精子も凍結するし、なんにも心配いらないよ」
『でも、本体は精子作れなくなっちゃうんだ……2度と……』
それを言われると……俺も悲しい!
千歳を好きな限り精子なんて使い道がないのだが、それはそれとして、生殖能力なくなるのは悲しいよ。一生子供作らないと決めた人生でも、進んで断種するかというとしないだろ!?
でも、とにかく千歳を泣かせたくない。心配させたくない。
「大丈夫だから、絶対大丈夫だから」
俺は、とにかく千歳をなだめることしかできなかった。




