そんなの直面したくない
退院日だが、退院前にまた改めてCTを撮るとのこと。主治医の白髪交じりのお医者さんが言った。
「この検査で、転移がないか確認します」
俺は緊張した。
「これで異常なければ大丈夫ですよね?」
「いったんは。CTで映らない微少なものがあるかもしれないので、数カ月後にまたCTを撮りますが」
「そうですか……」
ドキドキしながらCTを撮る。結果が分かったら主治医の先生が呼んでくれるとのことで、俺はソワソワしながら待った。
転移がなければ無罪放免。転移がなければ抗がん剤なし。転移がなければ千歳が泣くような副作用に直面しない……。
だけど、現実は残酷だった。先生は言った。
「肺にですね、小さいけど転移があります。いったん退院ですが、またすぐ入院です。ご同居の方も交えて、詳しく説明しましょう」
「そんな……」
俺は血の気が引く思いだった。
「大丈夫ですからね、何か月かかかりますけど、化学療法で治しますからね」
「で、でも、副作用とか……」
「そのあたりは、同居人の方を含めて詳しく説明しましょう。お子さんがいない方はね、特に説明しないといけないことがありますから」
「は、はい……」
俺は呆然としたまま荷物をまとめ、千歳が来るのを待った。転移していたことをLINEですぐ千歳に伝えるのは、物理的には可能だったが、心理的にとてもできなかった。
千歳はすぐに来てしまった。
『退院だな! 荷物持つよ、すぐ帰ろう、早く帰ろう!』
千歳が明らかにうきうきしていたので、俺はものすごくつらくなった。
「……ごめん千歳、転移があった」
『え!?』
「小さいけど、肺に。抗がん剤治療がいる」
『そ、そんな……』
千歳が愕然とする。俺は内心泣きたかった。
「先生がさ、千歳も交えて話すって言ってたからさ、まず話聞きに行こう」
そう言ったものの、俺は気が重いどころの話ではなかった。精巣がんの抗がん剤治療で確実にある副作用、それは……。
なんとか千歳に言わないで済ませられないかと思ったが、先生はその副作用について、さらっと言った。
「この化学療法では、造精機能障害が起きましてね、いわゆる無精子症になります」
『むせいししょう?』
まだピンときてない千歳に、先生はさらに言った。
「子どもが作れなくなる、と言うことです」




