無駄な願いにしたくない
玉袋に刺されたドレーンが抜かれ、俺は玉袋に絆創膏を貼られた稀な人間になった。狭山さんのDiscordサーバーで激動のここ数日を話すと、みんなざわめいた。
「金玉取っちゃったの!?」
「それ大丈夫なんです!?」
「子供とか大丈夫なんです!?」
俺は普通に答えた。
「取ったの片方だけなんで、片方は機能するから大丈夫です。転移さえしてなければ大丈夫」
「そんなに転移するがんなんですか?」
「進行が早いがんだそうで。生存率九割近いがんだから、そこに賭けるしかなくて」
転移だけは起きないでほしい! 転移だけは起きないでほしい!
みんなは口々に言ってくれた。
「転移してないよう祈っときますよ」
「きっと大丈夫ですよ」
「無事退院してきてください」
午後に千歳が来て、俺はぼやいた。
「がんになった場所が場所だからさ、他の人に言うときなんか気まずい」
『そうか?』
「その後は、タマ取っちゃうなんて大丈夫なの!? ってみんななるしさ」
『そりゃなるって』
「片方は残るから、去勢手術じゃないじゃん。でもみんな両方取ると思っちゃうみたいなんだよね」
『あ、それはあかりさんもそう思ってたみたいだ』
「転移さえ無ければ、何とかなると思ってるけどね」
転移さえなければ。転移さえなければ。俺は千歳が泣くような副作用に直面しなくて済むのだ。




