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子々孫々まで祟りたい 〜転んで祠を壊しちゃったら怨霊が子々孫々まで祟りに来たけど「俺で末代」と言ったら怨霊が困り始めて子孫を残させようと奮闘しだした件について〜  作者: zingibercolor・種・がくじゅつてきあかげ
21シーズン

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番外編 雁ヶ音と怨霊

 ちっちさんと待ち合わせの喫茶店に向かう途中。妙な気配を感じて私は足を止めた。

 私は、霊感、本家が言うには〈素質〉がわずかながらある。だから若いうちから素質がある同士の結婚を勧められて、でも嫌がって振り切って30歳なわけだけど。

 3年半前、本家当主のお婆さんが良くないことをして各地に怨霊が散らばったとかで、その時はさすがに私も怨霊の気配を感じた。

 その時と同じ気配が、今、する。

 喫茶店の扉のそばでは、二十歳くらいのきれいな女の子が、しきりに連れの男性に聞いている。


『なあ服これで変じゃないか?』

「バッチリ似合ってる、大丈夫だよ」

『化粧も変じゃないか?』

「変じゃないよ、似合ってる」


 痩躯の男性は女の子に優しく言い聞かせ、女の子の背中をそっと押した。


「大丈夫だから、そろそろ中に入りな。雁ヶ音さん待たせちゃうよ」

『うん……』


 えっ私!?

 男性は女の子に問いかけた。


「雁ヶ音さんの特徴教えてもらってるんだろ?」

『白いコートにチョウチョのブローチつけてるって』

「なら会えばわかるね。大丈夫、いつも通りにすればいいから」


 ちっちさん!? この子が!?

 この子から、まさにこの子から気配がする。怨霊の気配が。

 女の子が私に気づいた。私の格好を見て、ハッとした顔をする。私は思わず言ってしまった。


「ち、ちっちさん、怨霊なんです……?」


 女の子は慌てだした。


『わ、ワシ悪い怨霊じゃないです!』


 連れの男性も慌てだした。


「怖い怨霊ではないです! 無害です! あのっ、聞いたことありませんか、子々孫々まで祟りに来たけど「自分で末代」って言われて困って子孫残させようとしてる怨霊のこと!」

「え……あっ」


 聞いたことある! 本家のお婆さんがよくないことをした怨霊、まさにそういう怨霊だって聞いたことある!


「聞いたことあります……えっ、その怨霊がちっちさん!?」

『そう! 怖い怨霊じゃないです!』


 男性が言った。


「私が祟られてますが無害です、ものすごくよくしてもらってます、大丈夫です!」

「は、はあ……」


 頭のどこかで、ちっちさんの同居人は彼氏ではないこと、仲良くはあること、同居人さんにいい人と結婚して欲しがってることが繋がった。そういうこと!? この人を子々孫々まで祟るために子孫残させようとしてるってこと!?

 男性がちらっと喫茶店を見て言った。


「よかったら中入って話しませんか、ちと……ちっちと雁ヶ音さんの邪魔して申し訳ありませんけど」

「あ、はい……」


 3人で喫茶店に入り、席に着く。お冷やも待たずちっちさんが言った。


『あの、ワシちっちです。こっちは和泉っていいます』


 男性が会釈しつつ言った。


「misskeyではすぷにゃんでやってます」

「あ、ちっちさんによくリアクションをされてる方!」


 同居人さんってすぷにゃんさんだったんだ!

 ちっちさんが、すまなそうに言った。


『驚かしてごめんなさい、普通にMisskeyしてただけなんです、普通は怨霊ってわかんないし、普通の人間としてオフ会行きたかっただけなんです』

「そうでしたか……」


 そうだよね、ちっちさんとのやり取りは、いい意味で普通だった。普通に暮らしてる人なのだ、毎日ご飯を作って、誰かと一緒に食べて。私は怨霊かと誰何したのを申し訳なく思った。


「私こそ騒いですみません、変に霊感あるんで変にびっくりしちゃって」

『そうだったんですね、でも普段怨霊っぽいこと全然やってないです』


 私は努めて普通のことを聞くことにした。


「今日ピザの具材何持ってきました?」


 ちっちさんはホッとした顔をした。


『えっと、牡蠣のオイル煮とー、サルサソースとー、チリソースです!』

「おいしそう! 私ドライトマトのオイル漬けと、バジルソースと、プルコギです」

『わー! おいしそう!』


 お冷やが運ばれてきた。店員さんがすぷにゃんさんの前にお冷やを置こうとすると、彼は「すみません、私は出ます」と席を立った。


「ちっち、もう大丈夫だろ? 俺は横浜駅の方で待ってるからね」

『あ、うん!』

「楽しんできなね」


 すぷにゃんさんは私に会釈した。


「お騒がせして申し訳ありませんでした、お二人の邪魔しちゃいけないんでそろそろ退散します」

「あ、いいえ、こちらこそ騒いですみませんでした」


 そうか、ちっちさんと2人の約束だったもんね。

 すぷにゃんさんがいなくなり、私たちはコーヒーとケーキを頼んだ。


『ワシ、今日の見た目自信なくて、和泉に近くまでついてきてもらってたんです』

「見た目?」


 私は改めてちっちさんを見た。タイトな白いトップスはきれいなボディラインを引き立てて、黒いスカートは艶のあるブーツによく似合っている。整った顔立ちなのは言うまでもない。


「このままテレビに出られる見た目だと思いますけど」

『え!? そうですか!?』

「美人美人! 胸張っていきましょー!」

『えへへ』


 それから私たちは、ケーキを食べながらたくさんおしゃべりした。ちっちさんはオフ会初めてだから、ピザ焼き会場では、私はちっちさんを周りに紹介しまくって、ちっちさんは照れ笑いしつつもみんなと仲良くなっていった。ちっちさんは牡蠣のオイル煮をたっぷり持ってきていて、牡蠣ピザはみんなに大好評だった。総じてオフ会は楽しく終わり、私はちっちさんと駅まで一緒に行った。


「初めてでも楽しかったでしょう?」

『すごく楽しかったです! リードしてくれてありがとうございます!』


 満点の笑顔のちっちさんに、私も笑った。

 広く知られる怨霊、とんでもなく影響力の強い怨霊がごく一般的な感覚の持ち主であること。たぶんそれは、私にとっても、従姉妹にとっても、本当に僥倖だったのだ。

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