強い怨霊と仲良くしたい
猫又の長さんと会う日。久慈さんが車で迎えに来てくれた。
「あけましておめでとうございます、お二人とも、今日はよろしく」
『あけましておめでとうございます!』
「あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いいたしします」
車に乗り込んで、出発。俺は久慈さんと近況とか仕事のこととかをなんとなく話し、そしてふと気づいた。
「そう言えば、猫又の長さんのお名前をうかがってませんでした」
「ああ、ごめんなさい。鍋島銀っていいます。なんか、戦国時代に仇のことを忘れないために仇の苗字名乗ったらしいんで、なんかの記録にはあるかもしれません」
「へえー」
千歳が首を傾げた。
『鍋島かあ……鍋島化け猫騒動ですか?』
久慈さんは頷いた。
「それですね」
「千歳知ってるの?」
『えーと、鍋島って藩主が機嫌悪くして臣下を殺して、その臣下んちでかわいがられてた猫が化け猫になって藩主に復讐しようとしたんだって。退治されたけど』
久慈さんが補足してくれた。
「そうそう、退治されたけど死んではいなかったんですよね。ケガ治してる間に仇は寿命で死んじゃったんですけど……あ、もうすぐです」
都内に入った車は、雑居ビルの裏の駐車場に止まった。そして、俺たちは久慈さんに一階に案内された。木の作りの小さな呉服屋がある。和服がたくさんかけてあったり広げてあったりするけど、俺には価値がよくわからないな……。
すると呉服屋から、二十歳くらいのかわいい女の子が出てきた。
「久慈さん!」
「げ、ユキ……」
「げ、とは何ですか!今日来るって知って張ってたんですからね!」
この人は鍋島さんではなさそう。俺は久慈さんに聞いた。
「お知り合いですか?」
久慈さんはだいぶ困った顔で答えた。
「ちょっと……10年くらい前にしばらく面倒見てた子で……」
ユキさんは何の臆面もなく言った。
「久慈さんの婚約者です」
俺も千歳も「へ!?」『は!?』と言ってしまった。久慈さんは四十前、この子はせいぜい二十歳だから。
久慈さんはものすごく大きなため息をついた。
「婚約してない。した覚えはまったくない。お前と周りしかそんなことは言ってない。諦めろ」
「へこたれないのが取り柄ですから」
「もー、いいから! 鍋島さんいるんだろ!」
ユキさんは呉服屋の中を手で指し示した。
「奥へどうぞ、千歳さん、和泉さん! お茶持っていきますね」
呉服屋の奥、会計の奥は住居になっているらしく、畳の間が見えている。久慈さんがためらいなく上がるので、俺たちも靴を脱いで上がった。
久慈さんは奥に呼びかけた。
「鍋島さん、お久しぶりです。こちら千歳さんと和泉さん」
奥の卓には、銀髪で和服の老紳士がいた。
「おお、お呼び立てして申し訳ないね。私が鍋島です」
「こんにちは、和泉と申します」
『金谷千歳です!」
「こんにちは。一応、猫又の年長者をやらせてもらっているよ」
俺たちが卓に着くと、鍋島さんは自身の目に手を当てた。手を離すと、そこから出てきたのは金の瞳と縦の黒い瞳孔。猫の目だ……。
千歳は全然驚いてなかった。
『おっ、本当に猫又! 頼み事ってなんだ?』
「それはね」
鍋島さんは久慈さんをちらっと見た。
「蒼坊……久慈蒼のことでね。千歳さん、久慈と仲良くしてやってくれないか?」




