花火見ながら年越したい
千歳は、手作り金柑蜜煮と引き換えに和束ハルさんからパソコンとVRゴーグルを借りてきたそうだ。なので、年越しに俺たちはつつがなくVRChatに入れた。まず俺のファンと落ち合って、彼(または彼女)に案内してもらい、大きい神社のワールドに入る。
[ここで年越し花火がある]
『へえー、早く見たいなあ』
「この辺じゃやらないもんねえ」
[ここなら喜んでもらえると思ったんだ]
ワールドは美少女やケモミミや異形頭であふれかえっている。俺もそれなりのアバターでくればよかったかな?
俺は俺のファンに聞いた。
「君の友だちとか来てるの?」
[来ると言っていたが、今いないということは彼が恐れていた仕事のシステム障害かもしれない]
「かわいそう……」
[あっ、来た]
何とは言わないが、バインボインのうさメスケモが走り寄ってきた。低い声であいさつしてくる。
「ごめーんお待たせしちゃって! あっそっちの人たちが恩師の人?」
[そうだ。ハンドルネームのほうがいいな、彼はスプにゃんで、隣は同居人のちっちさん]
恩師!?
「君、俺のこと人にどう説明してるの……?」
[恩師、もしくは単に師と]
「何もしてないけどなあ」
うさメスケモ氏は俺達にもあいさつした。
「こんばんは、プッロミミと申します」
『こんばんは! ちっちです!』
「こんばんは、スプにゃんです」
「恩師ってことは、名無しちゃんのリアル知り合いです?」
俺のファンが不満げに言った。
[私はインターネット付喪神だ、ここがリアルだ]
俺はどう説明していいかわからなかったが、とりあえずこう言った。
「あー、リアルで会ったことはないですが、なぜか本名を知られています」
「あっそうなんですか、よかった」
俺は俺のファンに目をやった。
「名無しちゃんって呼ばれてるんです?この子は」
プッロミミさんは「そうです!」と身を乗り出した。
「名無しで押しかけホワイトハッカーやってきて! 私が対応してたらなんかプライベートのDiscordに友達になってほしいって来て! VRChatも来て! 金谷ユタカは偽名だって言うしじゃあ名前なんなのって言っても[ない]って!」
俺のファンはむくれた。
[名前は重要な問題だ、納得いくまで吟味してから自分自身に名をつけたい]
「もー、適当でいいからハンドルネームつけてくれたらいいのに」
[それはもう、インターネット付喪神でいいだろう]
俺も賛同した。
「そのほうが通りがいいね」
千歳が首を傾げた。
『じゃあ、決まってないのは本名なのか』
[それこそ、じっくり考えたい]
『まあ、名前ない方が呪われにくいとかあるし、無理に今つけることないと思うぞ』
[ありがとう。しかしハンドルネームがインターネット付喪神は我ながらいい案だ、あとでプロフィールを修整しておこう]
その時大きな音がし、神社の向こうで紅と金の花火がはじけた。千歳が歓声を上げる。
『わー! きれいだ!』
「いいもん見れたねえ」
千歳は次々と上がる花火を見て喜び、『たーまやー!』と叫んだ。
俺も声を上げた。
「かーぎやー!」
色々あって大変な年だったし、アタリの子のことは本当に気がかりだし、猫又の長の頼み事も気になるけど。
今この瞬間は、千歳と見るこの花火を楽しもうか。




