選択肢だけは増やしたい
二階の俺の部屋に、やっと机を入れた。机の上のパソコン周りを整え、またファンサをお願いされた時大丈夫かの確認のため、VRchatに入る。いるかなと思って、俺のファンのワールドに入ってみたら、俺のファンは喜んで出迎えてくれた。
[来てくれてありがとう。また何か困ったことがあったのだろうか?]
「いや、今は平気。俺の部屋、やっと環境が整ったからさ、そっちは何してるかなと思って」
[なるほど]
そう言えば、俺、この子のことなんにも知らないな。この子、いつもどうやって過ごしてるんだ?
「唐突だけどさ、君は普段何してるの?」
[最近は仕事をして、貯金を頑張っている]
「仕事? えっ、どこで働いてるの?」
[フリーランスだ。主にセキュリティ関連で動いている。脆弱性を見つけて開発元に半分だけ知らせて、あとの半分はそれなりの報酬をもらわないと教えない]
「はー、なるほど……相手は驚くだろうけど、セキュリティが堅牢になるのはいいことだね」
押しかけホワイトハッカーな感じは否めないけど。
俺のファンはあごに手を当てた。
[本当はもっと強い手も使えるのだが、それをしたらあなたは私が嫌いになるだろうと思ってしなかった]
た、確かに……セキュリティの穴つけるなら、データ抜いたりサイバー攻撃したりで脅迫もできちゃうもんな。
「強い手はやめてほしいね。今の方法は誰も傷つけないし、役に立つし、いい方法だと思うよ」
まあ、セキュリティ関連部門の人は怒られると思うが、それは仕方ない。
俺のファンは微笑んだ。
[ほめてくれて嬉しい]
「貯金して、何かに使うの?」
[いつか愛すべき人に出会えたら、その人のために使おうと思っている]
「あ、誰かを愛したいって言ってたね」
[その通りだ。金銭は愛ではないが、金銭は愛し方の選択肢を増やしてくれる]
だいぶ大人なこと言うな、この子けっこう成長速度早いのかも。
「その通りだね。金額の目標とかあるの?」
[特にないが、多ければ多いほどありがたい]
まあ、いざというときに使えるお金は多いほうがいいな。
「まあ、頑張りすぎないで、でも頑張りな」
[ありがとう。あなたも、閻魔大王の頼み事について頑張りすぎないでくれ]
「そうだね、ありがとう」
閻魔大王様の頼み事、今進捗は2/10だからな……それに、アタリの子のことも気にかかる。でも、手がかりは何もない。




