ユニコーンを騙したい
女装と英語を数日間練習し、そして今日。マリアさんが用意した転移門で、俺はユニコーンのいる空間に行くことになった。
千歳が心配そうに見送りに来てくれた。
『気をつけろよ、何かあったら大声出せよ』
「そういう事が起きないように頑張るよ……」
マリアさんと一緒に転移門をくぐる。転移門の先は森の中で、木漏れ日が下草を柔らかになでている。春みたいな気候だ。
マリアさんが言った。
「ユニコーンはこの森の奥の泉にいます」
「はい」
「私がご一緒できるのはここまでです。どうかご武運を」
「ご、ご武運……はい、頑張ります」
どういう事が起こるんだよ……。
森の奥へ進む。すると開けたところがあり、日に照らされて輝く池が目に入った。その奥に白馬が座っていて、その頭には天を突く立派な角があり……。
ユニコーンが首を上げてこちらを見た。
[おや、客人のようだ。汚れなき乙女よ、何か用かね]
「ハロー、アイムグラッドトゥーシーユー、ミスターユニコーン」
[おお、うれしいね、美しい乙女よ]
ユニコーンの話し方はなんかねっとりして嫌だったが、俺は丁寧な口調を心がけて話した。
「マイネームイズナナセイズミ。ウィーハブアフェイバーオブアスクオブユー。クジュープリーズアスクオブイット?」
あなたに頼み事があります。どうか引き受けていただけないでしょうか?
[角かい? 解毒したいものがあるのかい、乙女よ]
ユニコーンは俺に近づいて頭を寄せるようにした。そして俺に体を擦り付け、しっぽで尻をなでた。こ、このセクハラ野郎!
いくら俺が男と言っても、嫌悪感で怖気が立つ。ユニコーンは気にせず続けた。
[東洋の方かい? 黒目黒髪は神秘的だ……かぐわしき乙女よ、私にその香りを堪能させてくれたまえ]
ラクトン香水が効果を発揮している!
[汚れなき乙女よ、どうかしばらくこのままでいてくれ]
しっぽを腰に回されるわ、胸の匂いを嗅がれるわで、気持ち悪いしバレやしないかとヒヤヒヤする。俺は何とか口を開いた。
「あ、あー……アイキャンノットスピークイングリッシュウェル、バットアイ厶トゥートールアンドシンフォーウォメン、アイキャンンノットメイクユーハッピー……」
私は英語がうまく話せませんが、女としては背が高すぎるし痩せているので、あなたを幸せにできません。
[スレンダーな乙女も素晴らしいよ、ナナセ]
キモい!! これ以上引っ張ると何されるかわかんないからさっさと用件言おう!!
「そ、その……ウィーニードユアホーントゥーリムーブカース。ウジューギブアスヨアホーン?」
角いるんだ! くれ!
[その前にあなたを堪能させてくれ、汚れなき東洋の乙女よ]
何する気だよ!
しばらく俺はユニコーンにまとわりつかれて匂いを嗅がれまくり、しっぽでなでられまくった。必死で我慢したが、ほんの数分が何時間かに感じた。
やっと満足したらしく、ユニコーンは俺から体を離した。
[角だね? 今切り離すから、手で持っていてくれないか?]
「イエス」
ユニコーンの角を手で支えると、ポロリと取れた。俺は落ちかけた角を慌てて抱えた。
ユニコーンは言った。
[名残惜しいが、今日はこれでお帰り。呪いを取り除かないといけないのだろう?]
「イエス。サンキュー、ウィードントフォゲットユアギフトフォアアス」
あなたのしてくれたことは忘れない、とだけ言って早々に切り上げよう。
グッバイと言って引き返し、俺は転移門まで早足で向かった。転移門をくぐると、千歳とマリアさんが出迎えてくれた。俺は角を掲げて言った。
「成功です」
マリアさんの表情がほどけた。
「ありがとうございます!」
千歳が俺に駆け寄ってきた。
『大丈夫だったか! どうだった!?』
俺はげっそりして言った。
「もう二度とやらない」
『そんなにセクハラされたのか!?』
「後で愚痴聞いて、ユニコーンは殴らなくていいけど」
『う、うん……』
私情はさておき、マリアさんたちにユニコーンの角を渡して、俺は任務完了となったのだった。




