スケベ馬だからだましたい
悲しいことに、女装をして英語レッスンを受ける羽目になっている。指南役の金谷蒼風さんと、その奥さんのマリアさんは女装の俺を見て目を見張った。
「え、本当に男性なんですよね?」
「確かに女性としては背が高いですが……」
俺は作ってない低い声で答えた。
「男です、和泉豊と申します」
隣の千歳が言い添えた。
『女装しなきゃちゃんと男だぞ、ひょろいけど』
「千歳様も、来ていただきありがとうございます」
『全然平気だ、和束みやびのことでなんかあったら和泉のそばにいたいし』
「そうでしたか」
そう言う訳で、俺は女性声を使って英語を話す練習をすることになった。
俺は蒼風さんに聞いた。
「まず、ユニコーンとどう話せばいいんでしょうか?」
「若い処女にならデレデレですから、普通の内容を英語で話せば十分です」
「じゃあ、うーん、まず挨拶として……ハロー、ミスターユニコーン、アイ厶グラッドトゥーシーユー、マイネームイズナナセ・イズミ、とかですかねえ」
意味としては「こんにちは、ユニコーンさん、お会いできて嬉しいです。私の名前は七瀬和泉です」くらいのものである。
「よろしいです。ユニコーンは快く応じてくれると思いますが、英語はそれほどできないことについてもあらかじめ断っておくといいでしょう」
「あー……ソーリー、アイキャンノットスピークイングリッシュウェルって言っときますか」
意味としては「ごめんなさい、英語はうまく話せません」だ。
「十分です。和泉さん、学校で英語しっかりやってらっしゃいました?」
「受験英語だけですね、話すのは自信ありませんよ」
見物してる千歳が言った。
『いやお前すごいよ、そんなスラスラ出ないよ。ていうかもうワシわかんなくなってる』
「そう?」
中学生レベルの単語しか話してないけども。
「あとは、角をくださいとお願いするわけだから……うーん、ウィーニードユアホーントゥーリムーブ……呪いって英語でなんて言えばいいですかね?」
「curseですね」
「ウィーニードユアホーントゥーリムーブカース、ウジューギブアスヨアホーン?」
私たちは呪いを取り去るためにあなたの角が必要、どうかあなたの角をいただけませんか?
蒼風さんは頷いた。
「ちゃんと伝わります。十分ですね」
俺はホッとした。
「意外と行けました。想定外のこと言われたら困りそうですけども」
千歳は拍手している。
『わー、すごい』
マリアさんが言った。
「ユニコーンが了承したら、角は根元から落としてくれますので、後はそれをもらってお礼を言えば大丈夫です」
「うーん、サンキューだけじゃ足りませんよね……そうだな、ウィードントフォゲットユアギフトフォアアス、くらいでいいですか?」
あなたが我々にくれたものは決して忘れない、くらいの意味である。
「それで大丈夫です」
「よかった」
「それで、いろいろな場面を想定してのやりとりの練習をしたいのですが、まずユニコーンについてお話したいと思います」
マリアさんは身を乗り出した。なんだろう?
マリアさんは言葉を続けた。
「ユニコーンは、本当に若い処女が好きでして」
「はい」
「同じ処女でも、子どもや老人ではなく若い処女が一番好きで」
若い女の子じゃないとダメなのか……なんかやらしいな。
マリアさんは少し目を伏せ、それから覚悟を決めたように俺を見て言った。
「その……セクハラめいたことも言われるかもしれませんが、耐えてください」
「え゙、セクハラするんですか、ユニコーンって……」
俺は、思わず変な声が出てしまった。マリアさんは額を抑えた。
「若い処女が好きすぎるんですよね……」
「さ、触られたらバレるんですけど!」
ブラに偽乳入れるとはいえ、その他の部分を触ったらがっつり男の体だが!?
マリアさんは俺を安心させるように言った。
「しっぽでなでるくらいですからバレませんよ」
「しっぽではなでるんです!?」
俺が衝撃で固まっていると、千歳はため息をついた。
『和泉……頑張ってこい。本当に失礼なことされたらワシが殴りに行くから』
すると、マリアさんも蒼風さんも慌てだした。
「国交問題になります!」
「絶対にやめてください!」
ユニコーンって国交に関わってるんだ……。
俺は千歳に力なく笑いかけた。
「多少のことは我慢するよ……角は必要なわけだしね」
千歳がセクハラされるより、ずっとマシだ。……まあ、俺がセクハラされたら千歳に愚痴聞いてもらうかもしれないけど。




